万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

指向性エネルギー兵器の平和利用の妨害要因

2023年08月29日 10時08分42秒 | 国際政治
 指向性エネルギー兵器が備えている光子と並ぶ高速性、並びに、近距離ほど威力を発揮し得る性質は、同兵器が防衛兵器に適していることを示しています。仮に、ミサイル発射を監視する人工衛星と同兵器を組み合わせたミサイル迎撃システムが完成すれば、核の脅威を取り除くのみならず、人類に多大な犠牲を強いてきた戦争の歴史にようやく幕が下りるかもしれません。そして、その行方は、指向性エネルギー兵器の利用方法、即ち、平和目的に限定して利用し得るかどうか、にかかっていると言えましょう。当然に、同兵器は、逆の方向に悪用されるリスクが認められるからです。

 それでは、指向性エネルギー兵器の平和利用には、どのような妨害要因があるのでしょうか。中国のレーザ-兵器開発において顕著に見られるように、先ずもって、同技術は攻撃兵器として研究されていることでしょう。近年、日本国内の研究機関等で進められてきたレーザー技術が、学術交流の名の下で中国に流出するリスクが指摘されてきました。軍事技術への転用リスクがあったからです。SFの世界では、しばしば宇宙空間や空中、あるいは、市街戦でレーザー兵器を打ち合うシーンが登場しますが、近未来では、戦闘機や戦車への搭載のみならず、ドローンといった無人機やロボットに搭載した指向性エネルギー兵器が登場するかもしれません。さらには、敵国の占領に際しても、相手国国民の抵抗を排除するために特殊な電磁波を広範囲に発信し、思考停止や無気力化による精神的な武装解除のみならず、身体的にも筋肉を弛緩させたり、麻痺させるといった使い方もありましょう。指向性エネルギー兵器は、悪魔にも奉仕し得るのです。

 また、人工衛星にしても、必ずしも平和利用に限定されるとも限りません。例えば、今般のマウイ島火災で囁かれたように、電線網などに局所的に強力な電磁波を照射すれば、大規模な破壊や火災を発生させる、あるいは、電磁パルス弾のような効果を備えたテクノロジーが開発されるかもしれません。また、大統領や首相官邸や軍事司令部など、直接に標的として定めた政治・軍事的に重要な建物や人物を宇宙空間からピンポイントで攻撃することもあり得ます。仮にこうした兵器が出現すれば、核兵器以上の脅威となりかねず、人類は新たなる脅威に直面することとなりましょう。しかも、最初に同兵器を開発した国や勢力が同技術を独占した場合、現下の核の抑止力も失われますので、一方的な‘悪魔の支配’になりかねないのです。

 加えて、たとえ宇宙空間において監視・偵察用の人工衛星を各国が運用したとしても、当該国に対する軍事行動を意図している国によって破壊されてしまう可能性もあります。実際に、中国もロシアも地上からの人工衛星破壊実験を繰り返すのみならず、キラー衛星とも呼ばれる攻撃型の人工衛星の開発に着手しています。

 同技術については、人工衛星の破壊は大量の宇宙ゴミ(デブリ)を発生させるため、今年2023年4月に日本国の長野で開催されたG7の外相会合では、自主的禁止を宣言しています。しかしながら、アメリカを含む自由主義国が同技術の開発を放棄するとなりますと、当然に、衛星破壊技術は中ロに独占されることとなります。この結果、有事に際して日米等の監視・偵察衛星が全て破壊されてしまうのみならず、仮に上述した平和利用のための防衛システムが実現したとしても(もちろん、日米で共同開発が予定されている「衛星コンステレーション」による極超音速ミサイル迎撃システムも・・・)、中ロによる他国の衛星破壊によって機能不全となる事態も当然に予測されるのです。

 「宇宙条約」等は存在し、G7諸国のような自主規制の動きはあるものの、指向性エネルギー兵器並びに宇宙空間の利用については、現状では‘無法地帯’の如きです。核兵器については声高に核廃絶が叫ばれ、NPT体制が成立すると共に、核兵器禁止条約を後押ししたICANのような国際組織も活動してきたのですが、核をも凌駕し得る近未来の軍事的脅威については、不可解なことに目立った動きは見られないのです(つづく)。

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