万国時事周覧

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指向性エネルギー兵器を平和実現に活用する方法

2023年08月28日 11時44分47秒 | 国際政治
 指向性エネルギー兵器の最大の特徴は、破壊力がミサイルのような固体の物質ではなく、電磁波というエネルギーである点にあります。言い換えますと、たとえ音速を越える極超音速ミサイルであっても、電磁波の速さは真空中の光速と等しいため、速度において指向性エネルギー兵器に到底及ばないのです。この電磁波の物理的な性質が、物質である核兵器を無力化する理由の一つでもあります。先に相手を破壊できれば自らは無傷となりますので、兵器間の優劣比較にあって、速度が決定要因となるケースは少なくないのです。

因みに、光速は2.9979 × 10^8 m/s であり、秒速約30万kmですが、音速は大気圧下、かつ、温度15℃において秒速約340mなそうです。その差、凡そ88万倍というのですから驚きです。しかも、核兵器を運搬するミサイルは、飛行速度を挙げようとすればするほどに小型化する必要がありますので、電磁波の高出力に必要とされる電力量からしますと、これをピンポイントで迎撃する指向性エネルギー兵器にとりましては好都合です。

 その一方で、指向性エネルギーには弱点もあります。それは、電磁波の発射地点からの距離に比例して破壊力が減少してしまう点です。破壊の対象が至近距離にある場合には、高出力のエネルギー波によって対象物は難なく破壊できますが、対象物が遠方にある場合には、相当に強力な電磁波を発生させない限り、破壊力を発揮することは難しいのです。つまり、指向性エネルギー兵器は、破壊力の規模並びにその及ぶ範囲においては、物質の核分裂を利用する核兵器に劣ると言えましょう。

 以上に指摘した指向性エネルギー兵器の長所と短所は、同テクノロジーは、防衛兵器に適していることを示唆しています。遠方から飛来してくるあらゆる固体のミサイルを近場、すなわち、自国の周辺や領域内で破壊する能力に長けているからです。日米共同開発で予定されている極超音速ミサイル迎撃システムでは、衛星に搭載された指向性エネルギー兵器による遠方でのミサイル破壊を想定しているようですが、兵器として衛星を用いる必要性は必ずしも高くはないかもしれません(人工衛星は地球を周回してるので、広域的な「衛星コンステレーション」を構築したとしても、即座にミサイルを破壊できるかどうかは分からない・・・)。ウサギとカメほどの差があって、如何なるミサイルでも飛行速度において指向性エネルギー兵器には絶対的に叶わないならば、地上配備型やイージス艦、あるいは、潜水艦搭載型であっても、領域内に到達した時点で打ち落としても十分に間に合うはずであるからです。

 ただし、同防衛兵器は、自国を標的としたミサイルの発射を確実に探知し、その飛行経路を追跡する技術が必要となります。ここで期待されるのが、監視を目的とした精密なレーダーを搭載した人工衛星なのでしょう。同人工衛星がキャッチしたミサイル発射を示すデータは即座に地上に配置された指向性エネルギー兵器に送信され、公海上空、もしくは、領域内上空に到達した時点で自動的に迎撃されることとなります。人工衛星のテクノロジーは、この側面において活かされるのであり(もっとも、近距離破壊であれば、高精度の地上レーダーでも対応できるかもしれない・・・)、監視衛星と地上配置型の指向性エネルギー兵器の組み合わせた防衛システムこそ、全ての諸国の安全を確かにし、人類の忌まわしい戦争の歴史に終止符を打つ可能性を秘めているとも言えましょう。

 しかも、仮に、同システムが完成すれば、自らの領域を越えて敵国のミサイル基地を事前に攻撃する必要性も消滅します。また、同兵器システムは、実際にミサイルが発射された後に作動しますので、動かぬ物的証拠をもって正当防衛として迎撃することもできます。現状では、ミサイル発射の兆候を正確に掴むことは困難とされておりますし、また、‘強い疑い’の段階で敵基地を予防的に攻撃しますと、先制攻撃を仕掛けたと見なされるリスクもあるからです。しかしながら、同システムが平和に貢献するためには、国際社会は、幾つかの問題に取り組む必要がありましょう(つづく)。

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