ハマスと言えば、パレスチナにおいてイスラエルに対してテロ行為を加えてきたイスラム過激派組織というイメージが定着しています。今般のイスラエルに対する奇襲攻撃に際しても、人質としての女性や子供の略取や残虐行為が行なわれたともされ、イスラエルは激しい反応を見せています。同国のガラント国防相も‘総攻撃に向かう’と宣言しており、これを受けて日本国の外務省も、現地日本人に対して避難勧告を発令することとなりました。イスラエルでは、僅か2日間で過去最高の30万人の予備兵が招集されており、空爆に留まらず地上戦に及ぶとの情報もあります。
イスラエル軍の報復空爆により、パレスチナのガザ地区では、既に相当数の犠牲者が生じています。ハマス幹部を狙ったものとされていますが、空爆ともなりますと、民間人の犠牲は避けられなくなります。加えて、地上戦に発展するともなりますと、パレスチナ人の犠牲者の数はさらに増えることでしょう。無辜の市民が集う音楽フェスティバルも標的とされ、イスラエル領内にもロケット弾が打ち込まれ、民間人も殺害されているのですから、イスラエルにとりましては当然の同害報復ということなのかもしれません(もっとも、過去にあってもハマスによるロケット弾攻撃とイスラエルの空爆による応酬が続いてきており、今般の事件が初めてではない・・・)。
しかしながら、2007年6月以降、ISの如くガザ地区を武力で実効支配はしていても、ハマスは、パレスチナの国家としての正規軍ではありません(パレスチナ自治政府はライバル勢力のファタハを中心とした政府が存在しており、同国は分裂状態にある・・・)。アラブ諸国の首脳が訪問した事例はあっても、自由主義諸国からテロ組織として指定されこそすれ、ハマスを正式に政府承認する国はなく、むしろ、イスラエル政府のみが同勢力を‘戦争’の当事者と見なすことで、‘事実上の政府承認’を与えるような格好となっています(今般、イスラエル政府は、治安閣議でハマスとの「戦争」を正式に承認した・・・)。ハマスに対しては、ロシアやイラン等の諸国が支援しているとの指摘もありますが、これらはあくまでも‘裏道’なのです。
ここに、国際法におけるハマスの位置づけが問題ともなるのですが、もう一つ、問われるべきは、ハマスという団体の真の姿です。何故ならば、ハマスは、パレスチナではなく、むしろイスラエルを利している節があるからです。1993年に成立したオスロ合意は、期待に反し、第二次インティファーダが起きるなど、同地に恒久的な平和をもたらすことはありませんでした。合意後にあっても、ハマスをはじめとした対イスラエル強硬派の組織は抵抗運動を止めることはなかったのです。特にハマスは、ガザ地区からイスラエルが入植地を撤去した2005年に前後して、パレスチナ国内にあって政治的勢力としても急成長しています(パレスチナ評議会でも第一党に・・・)。2007年には、ファタハを排除してガザ地区を実効支配し、ハマスはパレスチナを分裂させてしまうのです。
ヨルダン川西岸地区のパレスチナ自治政府と、ガザ地区のハマスという2つの勢力の分立は、イスラエルにとりましては好都合であり、このため、イスラエルのネタニヤフ首相は、ファタハよりもハマスを支援していたとする指摘もあります。また、相次ぐハマスによるイスラエル攻撃は、イスラエルに対してガザ地区に制裁を加える口実を与えることにもなりました(経済封鎖なども実施され、青空監獄とも称されている・・・)。先にも触れましたように、イスラエルはガザ地区の入植地を撤収しています。しかしながら、同撤収は、イスラエルがガザ地区の入植地を放棄したのではなく、むしろ、ガザ地区全域の支配を狙っていたのではないか、とする疑いを濃くするのです。
そして、今般、ハマスが史上最大規模のテロ攻撃をイスラエルに加えたことで、イスラエルは、ガザ地区全域に対して包囲作戦を実行に移す根拠を得ています。30万という予備兵の招集規模からしますと、同地区は、程なくイスラエルの軍事占領下に置かれることでしょう。占領に際しては、多くのパレスチナ人の命が失われるかもしれません。このような展開が予測される以上、ハマスは、一体、誰の味方であったのか、という疑問も自ずと沸いてくるのです。ハマスによる奇襲攻撃も、情報収集等を怠ったイスラエル側のミスが原因とも指摘されていますが、本当に怠慢による‘ミス’であったのでしょうか。同事件が第三次世界大戦への序曲であるとするならば、より一層、ハマスの正体の解明は重要な意味を持ってくるように思えるのです(つづく)。