万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国は法廷で主張すべき-戦争の未然防止策

2024年02月13日 11時44分16秒 | 日本政治
 中国は、古代より自らを比類なき文明国と見なし、周辺諸国を蛮族として蔑んできました。‘中華’という表現こそ、中国人の優越感と自負心を余すところなく表しています。しかしながら、現代の‘中国’は、お世辞にも文明国とは言えないようです。否、人類の多くは中国を抜き去って、その先へと進んでいます。仮に現代の中国が先進的な文明国であるならば、決して台湾を武力併合したり、尖閣諸島を力で奪おうとはしないことでしょう。法的権利の争いなのですから、武力で決着を付けようとするのは、自らを野蛮国に貶めるようなものです。それでは、戦争の未然防止策として、中国を法廷での解決に追い込む方法はあるのでしょうか。日本国政府には、幾つかの策がありそうです。

 第一の案は、日中間で締結された条約に基づく訴えです。この方法については、日本国政府には、凡そ二つのアプローチが可能のように思えます。その一つは、尖閣諸島に対する中国の軍事力の行使を違法行為として訴えるというものです。1972年9月29日に締結された日中共同声明の第六項には、「・・・両政府は、右諸原則及び国際連合の原則に基づき、日本国及び中国が、相互の関係において全ての紛争を平和的手段により解決し、武力又は武力による威嚇に訴えないことを確約する」とあるからです。この条文は、1978年10月23日に発行した日中平和友好条約の第1条において踏襲され、念を押すように再確認されています。これらの条文に照らしますと、今日の中国による国内法による一方的な自国領化とそれに付随する尖閣諸島周辺海域における人民解放軍並びに海警船舶の活動は、条約違反となりましょう。

 もっとも、これらの条文には、平和的解決を定めてはいても、ICJによる解決の付託が明記されておらず、具体的な解決手段については曖昧です。しかしながら、逆の見方をしますと、解決機関はICJに限定されず、常設仲裁裁判所を始め、調停や仲裁などの幅広い選択肢があるとも解されます。何れにしましても、日中関係の基盤となる日中共同声明並びに日中平和友好条約において平和解決の規定が置かれているのですから、むしろ、日本国政府が、何故、同条文を積極的に活用しないのか、そちらの方が余程不思議なのです。

 もう一つの足がかりは、日中共同声明の第三項の解釈に関する争いです。同項は、台湾に関する文章なのですが、「中華人民共和国は、台湾が中華人民共和国の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」とあります。サンフランシスコ講和条約における日本国による領土権の放棄は、一先ずはポツダム宣言第八項を下敷きにしていますので、ここに、日本国政府は、中国を相手取って同項の解釈めぐる争いとして司法解決を求めるという道を見出すことができます(サンフランシスコ講和条約第22条に基づく単独提訴が受理される可能性も・・・)。

 ただし、同訴訟への応訴は、中国が、サンフランシスコ講和条約における日本国の領域確定が、連合国の総意であったことを認めることを意味します。となりますと、中国にとりましては、台湾が帰属未定地域であることを認めることにもなりますので、いわば‘自滅行為’となりましょう。このため、中国が、積極的に応訴する可能性は高くはないのですが、中国が、尖閣諸島に対する日本国の法的根拠を崩すためにはサンフランシスコ講和条約を否定する必要があることを強く認識していることは確かです。

 そもそも、1970年代に尖閣諸島の領有権を主張し始めた際に、中国は、沖縄返還に際してアメリカが尖閣諸島を日本国への「返還区域」に含めたとして批判しています。言い換えますと、サンフランシスコ条約第3条の信託統治の地理的範囲に関する異議申し立てとも解されます。この点においても、中国は、利害関係国として同条約22条に基づいてICJに解決を要請し得る原告適格を有するのですが、敗訴が目に見えていますのでこの手段をとろうとはしていませんでした。そこで、近年に至り尖閣諸島問題に国際的な注目が集まるにつれ、中国は、サンフランシスコ講和条約そのものを否定するプロパガンダを展開するようになったのです(同時に歴史的根拠をアピールするために、2020年10月にはウェブ上に「デジタル博物館」を開設・・・)。

 ところが、中国がサンフランシスコ講和条約をその不当性を理由に否定しようとすれば、条約法条約に基づいて条約の無効をICJに提訴するか、仲裁に付す必要があります(条約法条約第66条)。つまり、中国が、サンフランシスコ条約の無効を主張した場合、国際社会は、先ずもって中国に対してICJに対して判断を仰ぐように強く要請すきなのです。第二のアプローチは、中国の主張を逆手にとって訴訟を促すという方法です。

 以上に述べてきましたように、尖閣諸島問題を平和的に司法解決するためには、幾つかの手段があります。一つに限らず、あらゆる方面から中国に訴訟を持ちかけ、日本国政府は、率先して司法解決の道筋を付けるべきなのではないでしょうか。ウクライナ紛争やパレスチナ紛争における凄惨な戦争の現実は、紛争の平和的解決こそが、全ての諸国の政府の至上命題であることを示していると思うのです。

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