万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

尖閣諸島問題のICJ解決の難題の克服方法とは?

2024年02月12日 13時11分09秒 | 日本政治
 ICJ(国際司法裁判所)は、他の条約において解釈や適用をめぐって争いが生じた場合の解決方法として、同裁判所への付託を明記している場合、事件として受理しています。この手続きを用いれば、日本国は、領域をめぐる問題についてサンフランシスコ講和条約の第22条に基づいてICJに訴える訴訟資格があります。サンフランシスコ講和条約では、日本国の領域並びに戦後の信託統治を定める条文があるからです。しかしながら、この手続き、難点がないわけではありません。
  
 先ずもって予測される反論は、中華人民共和国(以下中国)が、サンフランシスコ講和条約の締約国ではない点となりましょう。今般、ウクライナ紛争並びにイスラエル・ハマス紛争では、ジェノサイド条約が法源とされましたが、被告国となったロシアもイスラエルも同条約の締約国です。これらの事例からしますと、中国は、サンフランシスコ講和条約の‘部外者’であり、同条約の法的効果が及ばないこととなります。
 
 この点については、第一に、日本国政府には、連合国側で同条約に加わった46の締約国にあって、尖閣諸島を中国領と見なす、あるいは、中立的な態度を示す国に対して訴訟を起こすという方法があります。同条約の第2条の解釈をめぐって、当時国の間で争いが生じたこととなるからです。例えば、相手国は、アメリカであっても構わないこととなります、何故ならば、アメリカの歴代政権は、日米安保条約の適用範囲について施政権の及ぶ範囲とする基本姿勢にあり、尖閣諸島の領有権問題については曖昧な態度をとっているからです。

 あるいは、アメリカは同盟国でもありますので、日本国による単独提訴という形ではなくとも、両国による特別の合意に基づくICJへの解決付託という道もありましょう。とりわけアメリカは、同条約の第3条に基づいて沖縄県等に対して信託統治を行なっていましたので、信託統治の終了時にあって領土的な変更は一切なかったことを確認することができます。日米合意による訴訟であれば、両国の協力による領有権確認訴訟と凡そ同義となります。
 
 第二の方法は、台湾との間に訴訟を起こすというものです。サンフランシスコ講和条約が発効した1952年4月28日、日本国は、日華平和条約に署名しています。同条訳の第2条にも、日本国の領土権の放棄に関する条文があり、台湾、澎湖諸島並びに南沙諸島と西沙諸島の放棄は、サンフランシスコ講和条約の第2条に基づくと明記されているからです。つまり、サンフランシスコ講和条約において放棄された台湾並びに澎湖諸島の範囲を確認する裁判を起こすのです。この場合、尖閣諸島は、台湾の付属島嶼であるのかどうか、という点が争点となるのですが、この方法は、日本国と台湾との間での尖閣諸島問題の解決策ともなりますし(台湾も、尖閣諸島の領有権を主張していた・・・)、また、中国による台湾の武力併合を法的手段によって未然に防ぐ手段ともなりましょう。

 もっとも、日華平和条約については、日本国政府は、日中共同声明が結ばれた1972年9月29日に失効したとする立場にあるようです。日本国内では失効済みとする解釈が浸透しているのですが、この失効、日本国側の一方的な認識に過ぎませんし(当時の大平外務大臣が‘事実上失効’と述べた・・・)、1980年における最高裁判所による‘条約終了’の判断も国際法上の効果はありません。台湾側は、同条約の失効を認めていないはずです(国連の条約リストにも抹消されずに登録されているのでは?)。因みに、2009年4月28日には、台湾の迎賓館に当たる台北賓館に、日華平和条約調印時の場面を再現した展示が完成したそうです。この点に鑑みれば、台湾の側が日本国を相手取ってICJに対して日華平和条約の継続性を確認する方が、自然な流れとも言えましょう。先月の1月13日に、台湾では民進党の頼清徳氏が総統選挙で当選しましたが、日台協力の下で法をもって中国の封じ込めを図るという展開もあり得ないわけではありません。

 台湾問題の法的解決につきましては別に論じる必要があるのですが、少なくとも、中国がサンフランシスコ講和条約の当事国ではないことが、即、日本国による単独提訴の道が閉ざされることを意味するわけではありません。そして、次に考えられるアプローチは、中国を、訴訟に巻き込むというものです(つづく)。

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