万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本国のウクライナ支援1兆円を考える

2023年02月24日 10時30分19秒 | 国際政治
 日本国の岸田文雄首相は、東京都内で開かれたシンポジウムにおいて、ウクライナに対する7370億円の追加財政支援を公表したと報じられております。これまでの拠出額の凡そ1950億円を合わせますと、1兆円に迫る額となります。融資ではなく無償提供となりますと、財政支援は、ウクライナの戦費を日本国民が負担することを意味します。中国や北朝鮮の軍事的脅威が高まる中、ウクライナへの財政支援は妥当な政策判断なのでしょうか。

 日本国は、ウクライナとの間に軍事同盟を締結しているわけではありません。また、今般、国連総会においてロシアに対する無条件撤退決議が採択されましたが、仮に、ロシアを国際法上の侵略国家とする立場を採るならば(もっとも、安保理ではロシアの拒否権により同決議は不成立・・・)、ウクライナ紛争の解決のための費用は、国連が負担すべき、すなわち、全世界の諸国が応分に負担すべきとなりましょう。しかしながら、日本国政府は、支出済みを含めて自国の一年間の防衛費の凡そ5分の1に当たる1兆円もの負担を決定しているのです。

 コロナ対策を根拠として政府の予備費が増額されており、現在、その予算は5兆円ほどに膨れ上がっております(例年の10倍に・・・)。政府は、同予備費からウクライナ支援を拠出するとしますと、国会での事後的な承認手続きは要するとしても、支援の必要性や支援額に関する然したる議論もなく、国際公約として財政支援を実施することでしょう。先日、インドのベンガルールで開かれたG7財務相・中央銀行総裁会議では、共同声明として総額で約5.3兆円の対ウクライナ支援の増額が表明されているからです。岸田首相は、この決定を受けて日本国側の負担を公表したと推測されるのです。しかしながら、同支援には、幾つかの問題点があるように思えます。

 第一に、日米同盟を挟んで間接的な繋がりはあるものの、上述したように、日本国には、ウクライナを特別に支援する国際法上の法的義務がありません。国際法秩序の維持に対するコストであると主張するならば、中国によって不当に併合されたチベットやウイグル、あるいは、ブータンなどの諸国に対しても財政支援するべきでとなりましょう。となりますと、今般の支援は、アメリカを中心としたNATO陣営の一員としての政治的決断であったこととなります。

 政治的決断であるならば、それは、岸田首相のものであったとは限りません。同盟国であるアメリカ、あるいは、同国をも操る世界権力の要請、もしくは、圧力があったものと推測されます。そしてそれは、日本国が、同盟国のアメリカや世界権力の一存で、国会での真剣な議論や国民的なコンセンサスを得ることもなく、戦争に巻き込まれてしまうリスクを示しています。

 その一方で、今般の日本国政府によるウクライナ支援は、将来的な日本有事に備えたものであるとする見解もあります。NATOに協力してウクライナを支援しておけば、中国が台湾に侵攻したり、日本攻撃に及んだ場合、NATOの対日支援を期待できるというものです。現在の1兆円の支援は、将来においては数兆円の支援として返ってくるかもしれません。しかしながら、ウクライナ支援で疲弊したNATO諸国には、将来における東アジア有事に際して、巨額の支援を実施するほどの余力は残されているのでしょうか。仮に、有事に際してNATO諸国から確実に支援を受けられるならば、日本国には、防衛費増額の必要性は低下するかもしれません(なお、中国との間に「中国ウクライナ友好協力条約」を締結している当事国のウクライナに、同額の支援を期待するのは非現実的・・・)。また、当事国に対する支援が政治的判断であるならば、ベネフィットとリスクを冷静に比較考量して、NATOは対日支援を控えるという選択を行なうリスクもあります。法的義務がないにも拘わらず、巨額の支援を実施するならば、NATOに対しては、日本有事に際しての支援を確約しておくべきと言えましょう。第2の問題は、言葉が悪く恐縮いたしますが、日本有事に際しての‘見返り’です。

 第3に挙げるべき点は、支援の継続性です。ウクライナ紛争の行方は不透明ですが、戦闘の長期化も予測されております。仮に、今後、戦争が長引くとしますと、日本国の財政負担も長期的なものとなりますし、たとえ停戦や和平等により破壊行為が止まったとしても、今度は、莫大な復興資金を要求される可能性もあります。日本国は災害国であり、日本国民は、東日本大震災の復興を目的とした復興特別所得税を2037年12月31日まで負担しております。南海トラフ地震も懸念される中でのウクライナ支援につきましては、国民の理解を求めるのは難しくなりましょう。むしろ、中国の決断次第で台湾有事や日本有事も現実にあり得るのですから、海外に大盤振る舞いするほどの財政的な余裕はないはずです。

 第4の問題は、日本国をはじめウクライナ支援国が拠出する支援金が、使途不明金となるリスクです。ウクライナは、開戦前夜にあってデフォルトの危機に直面していた上に、政治腐敗が著しい国でもあります。先日、ゼレンスキー大統領は、政府内部の汚職一掃を敢行しましたが、支援金が債務の返済など、別の用途に流用される可能性も否定はできず、巨額の支援を実施する以上、厳格なモニタリングが必要とされましょう。ウクライナにアカウンタビリティーを要求することなく支援を実施しますと、日本国は、同国のATM化する怖れがあります。

 そして、最後に指摘すべきは、ウクライナ紛争が、金融・経済財閥を中枢とする世界権力によって仕組まれた‘茶番’である可能性です。ウクライナ支援の増額が戦闘の激化を意味するとすれば、追い詰められたロシアが核兵器を使用する可能性も高まります。実際に、プーチン大統領は、戦略核兵器削減条約の履行停止を公表すると共に、昨日の23日には、「複数の核弾頭を搭載できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」を配備する方針を明らかにした」とも報じられています。地域紛争から第三次世界大戦、並びに、核戦争への拡大が世界権力のシナリオに書き込まれているとすれば、国際社会は、この方向に操られていることとなりましょう。

 以上に主要な問題点を述べてきましたが、ウクライナへの支援増額には深刻な問題があり、拙速な対応は避けるべきと言えましょう。そして、何れもが出口の見えない絶望的な状況を予測している以上、早期和平の実現こそが、世界権力からの解放という意味においても、人類が目指すべき道なのではないでしょうか。

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