万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

CSISの台湾有事机上演習が示唆する日本国の危機

2023年02月08日 12時06分37秒 | 国際政治
 台湾有事に関しては、今年1月19日付けのウォール・ストリート・ジャーナル紙に米戦略国際問題研究所(CSIS)による机上演習の結果が掲載されたそうです。何れにあっても米軍側が最終的に勝利を収める結果となったのですが、同勝利には、4つの条件が必要とされています。勝利のための条件とは、(1)台湾国民の戦闘参加、(2)武器の事前集積、(3)米軍の在日米軍基地への依存、(4)長距離対艦ミサイル(LRASM)の即時かつ集中投入となります。これらの4つの条件から、日本国も台湾も共に島国ということもあり、幾つかのリスクやそれへの対応が見えてくるように思えます。

 第1並びに第2の条件は、四方を海に囲まれた島国ですので、上陸してきた人民解放軍との白兵戦が予測されていることを示唆しています。この条件を整えるために、ウォール・ストリート・ジャーナルでは、台湾の徴兵制並びに即応体制の整備を提言しておりますが、仮に中国が日本国を武力制圧の対象として定めた場合、日本国も同様に、陸上戦を想定した対策を要することを意味します。なお、徴兵制の回避や民間人の命を守るための手段を考えた場合、ここで、核拡散防止条約のみならず、地雷禁止条約の是非の問題も持ち上がることとなりましょう(ウクライナでも、現在、地雷が使用されている・・・)。

 第3の条件につきましては、米軍の勝利条件が在日米軍基地の使用であるならば、これは、日本領内の米軍基地に対する攻撃や破壊活動が実行される可能性を示しています。台湾侵攻、あるいは、米軍の参戦とほぼ同時に、対日攻撃が開始されるかもしれませんし、先行する可能性さえあります。米軍基地を予め破壊しないことには、人民解放軍が必敗となってしまうからです。直接的な攻撃であればミサイルが使用されるでしょうし、間接的な手法を選択するのであれば、サイバー・テロを含む内部工作活動によって軍事基地としての機能を麻痺させることでしょう。日米同盟の重要性に鑑みれば、中国が日本国の自衛隊基地を見逃すわけもなく、同様の破壊活動が仕掛けられるものと想定されます(自衛隊基地周辺の土地が中国人に買い取られている現状は、通信傍受を含め、破壊工作のチャンスを与えているようなものでは・・・)。第3の条件は、台湾有事が日本有事に直結しかねないリスクを警告しているのです。

 そして、第4に指摘されているのが、長距離対艦ミサイルの即時的、かつ、集中的な投入です。中国は、台湾の武力制圧に際して空母を含む大艦隊を編成し、台湾周辺海域の制海権を掌握すると共に、台湾島への上陸を試みることでしょうから、これらを阻止するために、長距離対艦ミサイルをもって中国艦隊を破壊してしまおうとする作戦です。軍艦の走行速度とミサイルの速度を比較しますと、後者の方が遥かに高速ですので、同作戦が功を奏せば、最新鋭の中国艦隊といえども、ミサイル攻撃から逃れることは殆ど不可能です。監視衛星や高性能レーダー等により上空や遠距離からより正確に位置情報を獲得し得る今日、中国艦隊は絶体絶命となりましょう。

 もっとも、同机上演習では、長距離対艦ミサイルが想定されていますが、この作戦に疑問がないわけではありません。それは、対艦ミサイル攻撃は、必ずしも長距離ミサイルを用いる必要はないのではないか、というものです。詳細は分からないのですが、長距離対艦ミサイルの発射基地は、ミサイルの種類が長距離型である以上、アメリカ本土のものと推測されます。しかしながら、米国から台湾周辺海域に向けてミサイルを発射するよりも、台湾の対岸に設置されたミサイル基地からであれば短距離ミサイルで十分です。また、潜水艦に搭載したミサイルや魚雷をも併用すれば、同作戦の成功率はさらに高まることでしょう。

 対艦ミサイルの配備は、日本国の反撃能力としてのミサイル戦略にも直結します。日本国でも、今般、防衛力増強の手段としてアメリカからトマホークなどの巡航ミサイルの購入が取り沙汰されていますが(専門家によると北朝鮮への牽制に適しているらしい・・・)、中国艦隊を想定するならば、中距離対艦ミサイルの保有、あるいは、ミサイル搭載の潜水艦の即応体制の強化の方が効果的なのかもしれません。

 以上にCSISが行なった台湾有事の机上演習について述べてきましたが、同報告は、自衛隊が後方支援に留まるというシナリオではないため、発表当初から日本国を台湾有事に巻き込むものとして物議を醸してきたそうです。有事シミュレーションの一つに過ぎないのかもしれませんが、艦隊の派遣に先立っての台湾への集中的ミサイル攻撃も予測されており(台湾がミサイル攻撃で壊滅状態となれば、白兵戦の余地もなくなるのでは・・・)、今日の戦争が、相互破壊を伴うミサイル戦争へと移行してきている現状を示しています。スパイ気球をめぐり米中対立が激化する様相を見せる中、限られた予算の範囲で如何に効果的な備えができるのか、日本国政府も、真剣にミサイル戦略を練る段階に至っているように思えます。

 なお、台湾有事は、中国による台湾侵略に留まらず、米中戦争、さらには世界大戦並びに核戦争へと拡大するリスクが認められます(CSISの前身は、地政学者のカール・ハウスホーファーの弟子であったイエズス会士が創設した「エドマンド・A・ウォルシュ外交学院」であり、世界権力との繋がりも推測される・・・)。このため、いつも同じ結論にたどり着いてしまうのですが、最悪の事態に備えつつも、司法的アプローチや核の抑止力の利用も含め、未然防止のために最初の一歩を踏み出すことこそ、最善の策であると思うのです。

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