万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

‘批判者の嫉妬心’という魔法の反論術

2023年02月21日 12時37分30秒 | その他
 昨今、不祥事、失言、違法行為、犯罪等に対する批判への反論として、批判する人々の嫉妬心を指摘するという手法が見受けられます。‘その批判は、貴方の私に対する嫉妬心です!’という・・・。この反論術には、実のところ、魔法のような効果があるようです。

 第一に、同論法を利用しますと、自らの責任を回避することができます。たとえ批判や非難を受ける原因となった出来事が事実であったとしても、批判の原因を、相手方の心理に求めることができるからです。つまり、批判を引き起こした原因は、自らの不良行為や不適切な発言にあるのではなく、相手方の心の内にあることになりますので、自らは責任を負わなくても済むのです。‘私ではなく、嫉妬心を起こした貴方に原因がある’ということになりましょう。

 第二に、自らを批判してきた人々に対して、上からの目線で諭す立場に立つことができます。‘批判や非難という行為は、不正を糺そうとする正義感からではなく、批判する側の深層心理にまで踏み込んで理解すべきである’とする‘高説’を垂れられますと、批判する側も、一瞬、立ち止まることになるからです。人々から糾弾され、平身低頭、身を低くしていなければならない状況下にありながら、嫉妬論を打ち出した途端に立場が上昇し、批判者との間の位置関係が逆転してしまうのです。

 第三に、責任回避や立場の逆転のみならず、責任を転嫁することもできます。‘嫉妬心は、人間の悪しき感情の一つである’とする一般的な共通認識があります。何故ならば、嫉妬心とは、その人自身に何の落ち度や問題がなくとも、自分にはないものを持っていたり、何らかの点で優れていたりする場合、その人を不快な存在と見なす心の動きであるからです。嫉妬を受けた側は、一方的に悪意をもたれてしまいますので、一般的には、自らの欠如や相対的な劣位に起因する嫉妬は、嫉妬する側が悪いとされるのです(時には、嫉妬を受けた側に危害が加わることも・・・)。

このように嫉妬という行為は、‘悪’と見なされがちですので、嫉妬心を指摘する反論術を用いれば、批判する側を逆批判することもできます。批判の原因となっている事実を棚に上げて、相手を悪者に仕立て上げることも不可能ではありません。批判を受ける側が、実際に社会的地位が高かったり、富裕者であったり、高学歴であったり、知名度が高いなど、他者から羨望され、嫉妬されるような立場であればあるほど、この効果は強まります。つまり、自らに対する批判には耳を塞ぎつつ、‘私ではなく、嫉妬深い貴方が悪い’と言い返すことができるのです。

 さらに第4点として挙げるとすれば、正当な根拠に基づいて批判する人々をも萎縮、あるいは、自粛させてしまう効果です。嫉妬心の一般的な理解は‘悪’ですので、誰もが、嫉妬深い人とは見られたくないと思うことでしょう。このため、この論を持ち出されますと、自己保身の心理が働いて批判を控えてしまう人も少なくないのです(本稿も、嫉妬心から書かれていると逆批判されるかもしれない・・・)。

 以上に述べてきましたように、嫉妬心を用いた反論は、批判される側を窮地から救い出す魔法の杖のようなものです。この杖を一振りすれば、善悪を逆転させ、自らを高みに上げることができるのですから。しかしながら、この反論術の魔法が解けてしまう日も近いのかもしれません。何故ならば、その‘からくり’が分かれば、それが、魔法ではないことを多くの人々が知ってしまうからです。日常のみならず、同手法は、政治の世界でも頻繁に見られますので、大いに警戒すべきではないかと思うのです(しばしば、‘巨悪’を隠そうとして使われるケースも・・・)。

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