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万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

’ワクチンか、回復あるいは死か’ではなく’回復か、死か’では?

2021年11月23日 18時40分45秒 | 国際政治

 ドイツでは、ワクチン接種率が68%に達したものの、10月中旬以降、急速に感染が拡大しております。新規感染者数が過去最多を記録しており、ドイツ政府は危機感を募らせているようです。こうした中、イェンス・シュパーン保健相の発言が内外に波紋を広げています。数か月後を予測して、国民の大半が「ワクチン接種か、回復あるいは死亡」のいずれかになると警告したのですから。

                                               

 イシュパーン保険相の意図は、ワクチン接種の奨励にあるとされています。言葉を補いますと、「ワクチンを接種しなければ、コロナに感染し、幸運であれば回復、不運であれば命を失うことになる」ということになりましょう。即ち、事実上、ワクチン接種か、コロナ感染かの二者択一を国民に迫っているのです。それでは、同発言は、ワクチン未接種者に向けられているのでしょうか。それとも、接種者に対して3度目の接種を促すための発言なのでしょうか。ドイツでワクチン接種が始まった今春からおよそ6ヶ月が経過しておりますので、2度のワクチン接種によって生じていた免疫効果は低下しているはずです。この点を、データから分析してみることにしましょう。

 

ドイツのワクチン接種率68%とは、決して低い率ではありません。集団免疫の成立は60%前後とされていますので、本来であれば、感染者数が減少し、コロナ禍は終息してもよいはずです。ところが、10月中旬頃から感染者数は反転するかのように増加し始めているのです。そこで、ドイツの新型コロナウイルス情報に掲載されている新規感染者数、死亡者数、並びに、ワクチン接種者数を示すグラフを見てみますと、奇妙な点に気付かされます。それは、ワクチン接種者数がピークとなっている6月末では、新規感染者数や死亡者数が極めて低レベルにあるのです。つまり、ドイツは、コロナの感染状況が比較的軽度であった時期にワクチン接種を開始しているのです。その後、ワクチン接種者が減少する一方で、感染者数、並びに、死亡者数は3か月のあまりの間は低レベルで推移しているのです。

 

 ワクチンによる体内における抗体の生成は凡そ接種から2週間後とされておりますので、ワクチン接種数のピーク時からの3か月間にあって小康状態を保てたのは、ワクチン効果の現われとも推測されます。あたかも集団免疫が成立しているようにも見えるのですが、それでは、この期待を裏切るかのように、何故、10月中旬以降に感染者数も死亡者数も急速に増加したのでしょうか。未接種者のみが感染するのであれば、6月末から10月中旬までの凡そ3か月の間あっても感染者数は増え続けたはずです。

 

 そこで考えられるのは、(1)未接種者の感染に加え、10月中旬頃に、ワクチン効果が切れた接種者が、「ブレークスルー感染」するようになった、(2)ワクチン接種者の感染予防効果が維持される一方で、未接種者のみに感染する新たな変異株が出現し、未接種者の感染が急増した、(3)接種者にも未接種者にも感染する新たな変異株が出現した、(4)むしろワクチン接種者の方にADEが起きている、という4つの可能性です。

 

(1)であれば、当然に、イシュパーン保健相は、接種者に対して追加接種を求めていることとなります。その一方で、実際に、ヨーロッパ諸国では、アルファ変異株 B.1.1.7の比率が上昇してきており、しかも、ワクチン免疫を回避するとの指摘もあります。となりますと、(2)並びに(3)の可能性も高いということになりましょう。そして、仮に、アルファ変異株 B.1.1.7の出現が感染拡大の主要な要因であるならば、これらのケースでも、イシュパーン保健相は、未接種者のみならず、接種者に対しても、「ワクチン接種か、回復あるいは死亡」という二者択一を迫っていることとなりましょう。また、(4)であれば、中和抗体の量がADE抗体の量を上回るように、より強く接種者に対して追加接種を促しているのかもしれません。何れにしましても、イシュパーン保健相の発言は、接種の有無に拘わらず、全ての国民に向けられていると考えられるのです。

 

 しかも、原株に合わせて開発された既存のワクチンを接種してもアルファ変異株 B.1.1.7に対する効果は低い、あるいは、殆どないとすれば、イシュパーン保健相が提示した二者択一も無意味となります。ワクチンそのものに効果が期待できないのですから。この場合、「ワクチン接種か、回復あるいは死亡」ではなく、事実上、「回復か、死か」の二者択一となるのです。否、むしろ、ワクチン接種者にとりましては、3度目以降のワクチン接種は、「死」の可能性が高まることとなりましょう。

 

 もっとも、新型コロナウイルスは、かつてのペストほどの脅威ではありませんので、イシュパーン保健相の警告は、国民をワクチン接種に誘導するための脅し文句であるのかもしれません。この場合には、「非感染か、あるいは回復か死か」となりましょう。政府によって全国民に対して二者択一が迫られたのはドイツでの出来事ですが、日本国内でも同様の事態が起きないとも限らず、政府が脅かそうとも、日本国民は、自国の感染状況に照らしながら状況を分析し、冷静なる判断を心掛けるべきではないかと思うのです。


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