万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

揺らぐワクチンパスポート・追加接種・デジタル化の三位一体?

2021年11月17日 13時48分47秒 | 国際政治

 目下、日本国政府は、コロナワクチンの追加接種を急ぐと共に、「ワクチン・検査パッケージ」の導入にも着手しています。デジタル化をも想定しての方針であり、政府にとりましては、ワクチンパスポート、追加接種、デジタル化は一括りのセットのようです。あたかもこれらの3つのプロジェクトは三位一体のようなのですが、ここに来て、この三者のリンケージは、脆くも崩れそうな気配が漂っております。

 

 先ずもって指摘されるのは、三回目の追加接種とワクチンパスポートの間に見られる不整合性です。昨日の11月16日に開かれた新型コロナウイルス感染症対策分科会の会合では、「ワクチン・検査パッケージ」の制度導入を了承しつつも、当面の間はワクチン接種証明の有効期限を設けない方針を決定しています。仮に、二回の接種のみでワクチン接種証明を永続的に使用できるとしますと(もっとも、この見解は、ワクチン効果は時間の経過とともに減少するとする報告とは一致せず、同制度を今から開始しても、国民の大半が2回接種から6か月が経とうとしているので無意味となる…)、コロナ化が沈静化し、かつ、多くの人々がワクチンリスクに関する情報にも接するようになった今日、追加接種を控えようとする人が続出してもおかしくはありません。命がけで三回目のワクチンを打つ動機が著しく低下するのです。もっとも、証明書の有効期限を設けるとしますと、国民の多くは、高いリスクが指摘されている一生涯に亘る追加接種を迫られることとなりますので、強い反対の声が上がることでしょう。

 

 第二の綻びは、ワクチンパスポートとデジタル化との間に見られます。同分科会では、ワクチン証明書であれ、陰性証明書であれ、画像やコピーによる確認が認められることとなりました。このことは、同制度の完全デジタル化を半ば諦めたことを意味します。断念の理由として推測されるのは、完全デジタル化を実現するには、全ての事業者に対して、ワクチン接種システム(VRS)のクラウドにアクセスし得る確認用のデジタル端末の導入を義務付ける必要がありますし、端末を使用する側の設備の完備や運営にはコストも手間もかかるからなのでしょう。まずもって、デジタル機器の導入費用は誰が負担するのか、という問題も生じますし、来店がある度にVRSに照会して本人確認を行うのも面倒な作業です。尾身会長は、感染状況によっては制度の停止もあり得ると述べていますので、感染症の今後の推移が不明な以上、費用対効果の観点からも「ワクチン・検査パッケージ」のデジタル化は無駄となりかねないのです。

 

 そして三角形の残りの一片となるのが、デジタル化と追加接種との関係です。両者の関係に固有となる不整合性は見られないようなのですが、上述した第1と第2の綻びにより、第3の関連性も連鎖的に揺らいできます。そもそも追加接種に応じる国民の数は初回2回と比較して大幅に減少することでしょうし、追加接種にあってもその証明が画像やコピーで事済むのであれば、VRSを活用する必要性も低下するからです。

 

 このように考えますと、政府が三位一体で推進してきた「ワクチン・検査パッケージ」、追加接種、デジタル化は、相互矛盾や齟齬が生じることで弛緩し、一体性を維持できなくなるかもしれません。そして、この瓦解過程にあって、多くの人々は、コロナ禍を機とした政府の’不審な行動’に気が付くこととなるのではないかと思うのです。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする