万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本国政府による対韓提訴―自己矛盾に陥る韓国

2018年11月06日 15時18分40秒 | 日本政治
徴用工問題「手の内明かさず」=ICJ提訴報道で菅官房長官
先日、韓国の最高裁判所は1965年に締結された日韓請求権協定を蔑にし、戦時における所謂‘徴用工問題’について日本企業に対して損害賠償を命じる判決を下しました。これまで日本国政府は、竹島問題に関する動きはあったものの、外交上の対韓配慮から司法解決を自ら封印してきた嫌いがありました。しかしながら、今般の判決には堪忍袋の緒が切れたのか、司法解決をも辞さない構えを見せております。韓国政府が必要な措置を取らない、即ち、日韓請求権協定に誠実に従って同国政府自身が自国民に対して賠償を怠った場合とする条件付ではあるものの、司法解決に向けて大きく一歩を踏み出したことになります。

 取り沙汰されているのはICJ(国際司法裁判所)への提訴ですが、同裁判所に解決を付託するためには、手続き上、日韓両国政府の合意を要します。そしてここで、韓国は、まずもって自己矛盾に陥るのです。韓国の歴代政権の公式の立場は、同問題は日韓請求権協定によって解決済みというものでした。それにも拘らず、韓国の裁判所が外国との間で締結した条約の解釈にまで司法判断を及ぼし得たのは、近代国家の制度上の原則である三権分立を体よく利用したからです。行政部は司法部の判断に立ち入らないとして、韓国政府は、裁判所による判決を黙認する姿勢を示したのです。

しかしながら、この近代国家の権力分立の仕組みを口実とする作戦は、今般の日本国政府によるICJ提訴によって裏目に出ることとなります。何故ならば、韓国の歴代政権は、日韓請求権協定による徴用工問題の解決済みを認めてきたわけですから、司法部の判断はどうあれ、行政部としては解決済みの見解を貫く立場にあるからです。つまり、韓国政府には、日本国政府の共同提訴の申し出を断る理由がないのです。そして、同政府は、日本国政府と共に、日韓請求権協定における徴用工問題に関する解決済み解釈を確定する、同協定に関する司法管轄権は国内裁判所にはないことを確認する、あるいは、自国の裁判所の下した判決の効力の無効を訴える、といった極めて奇妙な裁判をICJの法廷で闘わなければならないのです。何れにしても、一国レベルで見れば自分が自分を訴えるという矛盾に満ちた構図となります(韓国司法部の信頼性も面子も丸潰れに…)。

 かくしてICJへの共同提訴となれば一種の‘自滅行為’ともなりますので、韓国政府は、ICJでの共同提訴には同意しないであろう、とするのが一般的な見方です。となりますと、日本国政府は、単独提訴という手段に訴えることとなりますが、この場合でも、韓国政府は、深刻なジレンマに苦しめられます。ICJでの共同提訴を拒絶する以上、韓国政府は、徴用工問題は解決済みとしてきた従来の立場を翻し、自国の最高裁判所の判決と足並みを揃えざるを得なくなるからです。ここで韓国政府は、三権分立を盾にした国内裁判所に対する黙認主義を放棄せざるを得ない状況となり、自らが日本国との間の国際紛争の矢面に立たつのです。

ICJの共同提訴を拒絶した国は、その理由を説明する義務がありますので、文在寅政権は、その説明に窮するはずです。韓国の歴代政権が解決済みの立場にあり、かつ、その立場を転換するだけの合理的で説得力のある理由もないからです。もっとも、韓国では、伝統的に‘上の者は下の者との約束を破ってもよい’とする考え方があるとされ、同協定が締結された1965年の時点より自国の国力が上がり、日本国との力関係が変化したことを理由に協定破棄ができると考えているかもしれません(韓国は日本国を自らより下位と思い込んでいる?)。しかしながら、儒教的な厳しい身分制度にあって合意破棄が上の者が下の者に自らの力を見せつける手段であるならば、近代と前近代を画する‘身分から契約へ’というH.メインの言葉が示すように、韓国は、未だに前近代的な国家であることを自ら証明するようなものです。今後、如何なる国も、韓国と条約等を締結することに躊躇することでしょう。

以上に日本国政府によるICJへの提訴のケースについてあり得る展開について述べてきましたが、合意であれ、不合意であれ、どちらを選択しても、韓国は国際社会において厳しい状況に置かれます。そして、日本国政府が、ICJではなく単独提訴が可能な常設仲裁裁判所による解決を選択するとなりますと、韓国の逃げ道は凡そ全て塞がれることとなりましょう。日本国政府は、今度こそ、安易な妥協に堕すことなく、法の支配の原則を貫くべきではないかと思うのです。

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コメント (2)
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