万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

南シナ海問題を置き去りにすることなかれ―中国支配の構造化の前兆?

2018年01月28日 16時17分49秒 | 国際政治
日中外相、関係改善へ会談=東シナ海や対北朝鮮協議
報道に拠りますと、今月27日から28日にかけて中国を訪問していた河野外相は中国の王毅外相と会談し、日中首脳の往来の調整、東シナ海問題についての協議、並びに、北朝鮮問題における連携などが確認されたそうです。日中関係改善の兆しとして好意的な報道が多いのですが、この三つの確認事項を見る限り、中国の狡猾な戦略に絡め取られそうな気配がいたします。

 実のところ、両国間の確認事項には、中国問題の核心とも言える重大な問題が含まれておりません。それは、南シナ海問題です。常設仲裁裁判所の判決を無視した南シナ海問題こそ、日本国は直接の当事国ではないにせよ、国際社会における法の支配の確立を目指す日本国と、自国中心の華夷秩序の構築を狙う中国とが、国際秩序を支える価値と原則において決定的に対立する問題領域なのです。

 仮に、中国側が、対日関係改善の条件として、南シナ海問題を議題にすることを拒んだとしますと、その時点で、日本国側は、中国に対して大幅な譲歩したことになります。否、日中間の関係改善を優先するばかりに、国際法秩序の崩壊を容認するとなりますと、日本国政府は、優先順位を間違えたとしか言いようがありません。日本国は、第二次世界大戦後の国際法秩序構築の意義を認め(主権平等と民族自決の原則の下における法秩序の形成という方向性…)、連合国による東京裁判を甘受したのですから、国際社会の無法化の容認は戦後の出発点を自ら否定することにもなりましょう。

 こうした懸念に対しては、上述した両国間の首脳会談が実現すれば、将来的には議題に上げることができるとする反論もありましょうが、たとえ今後、両国首脳間の相互訪問が実現したとしても、中国ペースで議題が選別されるのでは、首脳会談の意味するところは、日本国政府に対して、中国、否、独裁者と化した習近平国家主席からその意向が伝達される機会の提供に過ぎなくなります。首脳会談において、双方があらゆる問題を提起し、自由に忌憚なく意見を述べ合うとは思えず、中国共産党の官僚主義からすれば、両政府間で事前に調整された筋書き通りに会談が進行することになるでしょう。仮に、日本国側が、事前に南シナ海問題を含めるように要請したとしても、中国側は、首脳会談のキャンセルも辞さない態度で、ヒステリックな拒絶反応を示すと予測されるのです。

 そもそも首脳会談とは独裁者向きの外交手法であり、権力基盤を固めたい習主席にとりましては、外交権を含む対外政策権限の独占を内外に示すチャンスともなり得ます。因みに、アメリカをはじめとする自由諸国との間では、こうした首脳会談の制度化は試みられていません。議題の選択に限らず、中国に主導権を握られた形での日中関係の改善は、華夷秩序の路線に沿った中国支配の国際レベルにおける構造化という意味において、日本国のみならず、国際社会にとりましても極めて危険なように思えるのです。

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