万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

先鋭化する”壁問題”-国民に究極の選択を迫る米大統領選挙

2016年03月05日 15時35分28秒 | アメリカ
指名獲得へ一層弾み=クリントン、トランプ両氏―2位候補も一定の成果・米大統領選
 共和党の予備選をリードしているトランプ氏は、イスラム過激派によるテロやメキシコからの不法移民問題への対策として、”壁の建設”を強く訴えてきました。センセーショナルな問題提起のために”暴言王”との異名もあるようですが、仮に、大統領選の本選において、トランプ氏対クリントン氏の構図となった場合、”壁問題”は、アメリカ国民に究極の選択を迫る可能性もあります。

 かねてより民主党は、移民受け入れ賛成の立場にあり、大統領選挙でもアフリカ系やヒスパニック系等のマイノリティー票は民主党の票田です。このため、クリントン氏は、トランプ氏の”壁の建設”に対して”壁の破壊”で応じています。両氏は、”壁の建設”と”壁の破壊”という、全く以って正反対の政策を提起しているのです。”壁の建設”には、東西ドイツ分裂の象徴となった”ベルリンの壁”が思い起こされ、人々を分断すると共に、自由を束縛して閉じ込めるイメージがあります。その一方で、”壁の破壊”もまた、プラスのイメージばかりではありません。古今東西を問わず、城壁は、城壁内に暮らす人々の安全保障の象徴であり、戦争における敗北も、時として攻城戦の末の城壁破壊によって決せられており、自らを防御する手段が失われた絶望的な状態を意味するからです。

 実際に、国境という”壁”が完全に取り払われたとしますと、極端な場合には、外国が軍隊の進駐ではなく移民を送り込むことで相手国を占領する、あるいは、コントロール下に置くこともできます。全ての諸国が国境管理を破棄すれば、確かに戦争はなくなるのでしょうが、その代償もまた死活的です。人の際限のない流動化によって、社会の不安定化のみならず、国家そのものが融解しかねないのですから。

 仮に、大統領選挙が上記の構図となった場合、果たして、アメリカ国民は、”壁の建設”と”壁の破壊”のどちらを選択するのでしょうか。報道によりますと、人口比において白人人口数をマイノリティー人口数が追い抜いたため、民主党有利との見方も示されていますが、それもまた、民主主義国家では、移民系の国民が多数を占めた時点で、移民が政治的主導権を握る国家となる運命が待ち受けていることを明示します。アメリカは元より世界各国から移民を受け入れてきた多民族国家とはいえ、移民問題で揺れる全ての諸国もまた、アメリカの大統領選挙の行方に関心を抱かざるを得ないのです。

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コメント (4)
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