万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国の国際海洋司法センター設立-国連海洋法条約からの脱退か?

2016年03月15日 15時17分28秒 | 国際政治
 中国の最高人民法院の周強院長は、先日、全国人民代表大会において、国際海洋司法センターの設立を宣言しました。周院長の口からは当機関の詳細に関する説明はありませんでしたが、国際海洋法における中国の独自の動きは、事実上の国連海洋法条約からの脱退となりかねない危うさがあります。

 現在、中国は、国連海洋法条約の締約国です。国際社会では、同条約に基づいて国際海洋法裁判所も設置されており、海洋法条約の解釈や適用から生じた事件を管轄しています。海洋法に関する国際的な事件が発生した場合、締約国であれば当裁判所を利用して解決できますので、中国一国による新たな国際司法機関の設置は不必要どころか、国際社会にとりましては、懸念材料以外の何ものでもないのです。

 当センター設立の背景には、南シナ海における領有権問題が横たわっていることは想像に難くありません。目下、フィリピンは、国連海洋法条約に基づいて仲裁裁判に訴えておりますが、同仲裁裁判所が中国側の主張する九段線を認める可能性はゼロに等しいからです。締約国でありながら、中国にとりましては、国連海洋法条約は”目の上のたんこぶ”なのです。このため、中国は、独自に国際司法機関を設立すれば、既存の国際法の縛りから逃れることができると考えたのでしょう。”国際”と称しながら、中国の国際海洋司法センターでは、おそらく、国連海洋法条約ではなく、中国の国内法が適用されるものと予測されます。つまり、中国は、国際海洋司法センターの設立を以って、国連海洋法条約からの脱退を試みているようにも見えるのです。

 国連海洋法条約は、全ての締約国の海洋における権利の保護、及び、人類の共通財としての海洋の平和的利用と秩序の維持を目的として制定されております。一方、周委員長は、”同センターは、中国が「海洋大国」になることに貢献する”と述べ、一国主義的な利己的野心を露わにしております。中国の国際司法センター設立は、即、他の諸国が中国から侵害を受ける可能性を意味するのですから、国際社会はこの問題を軽視することなく、中国に対する圧力を強めるべきではないかと思うのです。

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