万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

安保法案反対派による中国脅威否定論の怪しさ-東シナ海の写真公開

2015年07月26日 15時10分52秒 | アジア
 先日、日本国政府が、中国による東シナ海での開発の写真を公表したところ、安保法案反対派の人々は、安保法案成立のために中国の脅威を煽る政府の世論操作であると非難しているそうです。安保法案反対派は、中国の脅威だけは、どうしても認めたくないようなのです。

 ところで、東シナ海の天然ガス・油田に関しては、実際には、商業ベースに乗るほどの埋蔵量が無く、中国海洋石油と合弁していたユノカルやシェルなどの資源メジャーが既に撤退していることが、中国脅威論の否定の根拠とされています。しかしながら、この説には、幾つかの疑問点があります。第1に、埋蔵量については、ユノカルが撤退した際の理由として、石油で日本国の消費量の1週間分、天然ガスで25日分しか埋蔵量と指摘していることです。仮に、この情報が事実であれば、中国が、新たに12基ものリグを建設した目的は、別にあると考えざるを得なくなります。第2の疑問点は、埋蔵量についての情報は、中国海洋石油の年報に掲載されていた点です。東シナ海の石油・天然ガスについては、日本国との間に争いがあることは承知しているはずですから、正確なデータを公表したのか、疑わしい限りです。第3に、資源埋蔵量は日本側の鉱区の方が豊富でありながら、水深が深いためにパイプラインでの輸送は不可能であり、洋上液化と輸送船を用いるのではコスト高になるそうです。可能性があるのは、中国側のリグにパイプラインで繋ぎ、中国に売却する方法なそうですが(中国は、リグからパイプラインで中国沿岸部に輸送可能…)、おそらく、2006年に日中で合意された共同開発案は、この路線であったのかもしれません。ユノカルやシェルの撤退は2004年のことですので、共同開発案の時点では、両国とも、当事業は採算性が合うと見ていたことになります。その後、シェール革命によって価格が下落し、採算性が悪化したとしても、中国が、今日、単独で大規模な採掘に乗り出した背景には、何らかの勝算があるはずです。もっとも、日本側からのの非難を受けて、中国側から共同開発の協議を申し出ているとする情報もあり、この申し出の真意も疑わしいものの、少なくとも、中国側が、東シナ海の資源価値を認めている証拠とはなります(あるいは、中国脅威論を自ら打ち消すため?)。

 中国の脅威否定論者は、東シナ海の資源的価値を否定することで、中国の海軍力増強の可能性を打ち消したいようですが、上述した疑問点からしますと、仮に経済的価値がないとすれば、軍事目的の可能性がむしろ高まりますし、実際には経済的価値があるとしますと、一方的な資源採掘は、日本国の権利侵害となります(共同開発の提案もポーズか、時間稼ぎかも知れないし、中国への売却にもリスクが伴う…)。中国脅威否定論こそ、安保法案反対派による世論操作ではないかと疑うのです。

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コメント (2)
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