福島第一原子力発電所での深刻な事故以降、わが国では原子力発電に対して否定的な意見
が席巻しています。このために、自治体の首長が、原子力発電所に対するさらなる安全性
の確認を求めており、現在定期検査で停止中の原子力発電所の再稼動は困難な状況になっ
ており、さらに、今後順次定期検査に入る原子力発電所も同様の事態に追い込まれること
になります。ましてや、建設中、さらには新規に建設が予定されている原子力発電所に至
っては、工事の中断、もしくは計画そのものがが頓挫する可能性があります。
原子力発電ついては、福島第一原子力発電所の事故の教訓から、国でも耐震、津波対策、
全ての非常用電源喪失などについて安全設計基準の見直しが行われるようですので、既存
の原子力発電所はきちんと稼動していく中で、新しい安全設計基準を適用して安全性を高
めていくことが必要で、やみくもに稼動停止を行うことは避けるべきと思います。
わが国のエネルギーの中で原子力は30%を占めていましたが、停止中の原子力発電所が
あるので、現実には20%程度にまで低下していますので、「いまこそ日本は脱原発・自
然エネルギーに転換するべき、原発が無くてもわが国のエネルギーは困らない」という見
解もあります。ソフトバンクの孫正義社長は自然エネルギー、特に太陽光発電の拡大を提
唱しています。自然エネルギー利用の促進、わけても太陽光発電は、そのもつイメージの
良さから一般国民受けしますし、原子力に代わるエネルギー源として国民の期待も大きく
なってきています。
ドイツが原発撤廃を決定しましたが、ヨーロッパ大陸で電力の送電網が国際的に繋がって
いる国と、我が国のように島国で送電網が閉鎖している国とでは同一に考えられません。
ドイツでは原発を廃止しても、不足電力は隣国の原発大国のフランスから輸入できるので
すから。
エネルギー問題は今後のわが国の産業構造との関係で論じられるべきと思われます。 即
ち、家庭用などの小口需要ばかりでなく、電力を大量に使用する製造業や鉄道、巨大な高
層ビル群、さらに、常に安定した電力が必要とされる電波・通信業界や医療業界など需要
側の電源をどのように考えるか、という視点でも検討を行うべきと思います。
従来は、ベース電源の役割を原子力発電と火力発電(石炭・石油・LNG)が担ってきま
したが、今後原子力発電が減少していくことを前提に供給側の電源構成を考えなければな
りません。
日本では現在、太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電などの自然エネルギーは9%
程度で、太陽光はわずか1%に過ぎません。 孫社長が提唱する2020年までに自然エネル
ギー30%というのは、10年間で3倍以上にすることになります。 日本では大規模の
水力発電の可能な場所はほとんど残っていないのが実情であり、今後急激な増加は考えら
れませんし、地熱発電の適地はほとんど国立公園内であり、発電所建設は自然環境保護と
の兼ね合いもあり、従来実現してこなかったという現実があります。環境保護という大義
名分を振りかざす勢力が勢いずきますので、今後とも大きな進展は出来ないと思われま
す。風力は陸地や洋上での適地選定がどの程度あるのか、が課題になります。北欧などの
ように風力が一定の規模を占めるのは、我が国では期待できないと思います。
まず、太陽光発電は当然のことながら太陽の照っている昼間しか発電できません。即ち、
エネルギーを多量に必要とするピーク時に有効な電源といえます。
従って、鉄道や工場、電波・通信業界、医療業界など、常に安定した大量の電力を必要と
するところの主力の電源としては使えません。これらの分野で太陽光発電も利用されます
が、あくまでもピーク対応、さらには、企業イメージのアップとしての取り組みです。
原発の停止が続けば、電力会社による電力供給が不安定になることを危惧し、企業は、既
存の非常用自家発電設備を増強したり、新たに自家発設備を設置すると思われます。
非常用自家発装置は今までは、小型のディーゼル発電機が多い思われますが、今後は出力
の大きなガスタービンへの切り替えが増えてくると思われます。さらに、ガスタービンに
石炭ガス化のスシステムを使用すれば、発電効率もよく、なによりも、CO2の低減も期
待できます。さらに企業としては、非常用発電機として利用するばかりでなく、常時フル
稼働させて、余剰の電力は電力会社の売却するところも多くなってくるものと思われま
す。
次に家庭用電源ですが、やはり太陽光は出力の不安定さから主力にはなりえません。今
後、太陽光の不安定さを払拭するような革新的なバッテリ-が開発されれば別ですが。
また、家庭での太陽光発電が普及するに伴い、大量の余剰電力を電力会社に売却したり、
逆に不足分を電力会社から購入することが発生しますが、周波数や電圧変動などの
“電力の質の維持”という課題が出てきます。 電力会社の系統への影響がほとんど出て
こない量の変動はどの程度までなのか、対策をどのようにして、誰が行うのかなどなどを
解決しておくことが必要になります。さらに、太陽電池パネルが大量に設置されてきた場
合、反射光や景観の問題も生じる可能性があります。
出力の安定という意味では、家庭用燃料電池が注目されます。今年の10月にエネオスが販
売予定の家庭用の固体酸化物型燃料電池(SOFC)は、平均的な家庭の70%程度の電力を
まかなえるとされており、今後も技術開発により、能力が向上することが期待されます。
原料は都市ガスやLPガスですので、すでに各家庭で使われているものものですし、化
学反応で発電するので、なによりもCO2が極めて少ないというエコ時代にピッタシの電
源と思われます。将来大型の燃料電池が開発されれば、業務用にも使用されていくものと
考えられます。
いづれにしても、自然エネルギーについては、発電コストが高いということがありますの
で、設備に対する国や自治体の補助金、さらに、余剰電力を電力会社が買取る義務が必要
になります。ソフトバンクの孫社長は、20年間、40円/kwhでの買取を要請していま
す。
現在の制度では買い取り価格は、42円/kwhに設定されていますが、技術開発に伴って、単
価が低下していくと思われますので、買い取り価格もこれに伴って、見直していくべきで
しょう。
<発電単価比較:資源エネルギー庁総合エネルギー調査会〔H23.3.10資料より抜粋〕>
・一般水力:8.2~13.3円/kwh 設備利用率45%
・石油火力:10.0~11.03 同 80%
・LNG火力:5.8~6.4 同 80%
・石炭火力:5.0~6.0 同 80%
・原子力:5.4~6.2 同 70%
・太陽光:38~46
・風力発電:12~26
・地熱発電;12~24
・バイオマス発電:12~41
・(燃料電池:28―――NEDO試算:リン酸型)
〔2011年6月6日 ☆きらきら星☆〕