ワッツタックス / スタックス・コンサート (DVD) (1973)
1965年に暴動があったLAのワッツ地区で72年に開催された野外イベントの記録映画。何と10万人以上の人がスタジアムに集まったということでその映像も壮観。フィールド部分に設営されたステージを取り囲む群衆はほぼ全員黒人。この地区は当時住民の99%が黒人だったそう。しかも低所得者ばかりのいわゆる「スラム街」。当時はもちろん、随分後になっても(今も?)他人種は地区に入ったり、車を停めたり、住民と目を合わせたりしないようにしなくてはならない危険な地域だったそうだ。「Wattstax」とは地区の名前「Watts」と出演アーティスト所属レーベル「Stax」の造語。
純粋にライヴ映像だけではなく同地区の市井の人々へのインタヴューや、コメディアンのリチャード・プライヤーの語りなんかも挟まれているドキュメンタリーとなっている。あくまでも当時の同地区の文化や風俗の記録となっていて政治的に強い主張があるというような内容ではない(おのずと浮彫りにはされるが…)。
スタックス全盛とあって登場するアーティストの演奏の充実度はすごい。オープンなスタジアムの真ん中のあまりオーガナイズされていないステージなので相当演りにくかったと思うが、どのアーティストも質の高い演奏で本当にかっこいい。衣裳なんかも見もので、とにかく「濃い」(笑)。大トリはアイザック・ヘイズ(Isaac Hayes)。元はスタックスの裏方。収録曲数が少ないのが意外だが、当時は映画「Shaft」のテーマ曲「Theme from Shaft」の大ヒット直後だけに別格の扱い。
映像からにじみ出してくる70年代の、それも特殊な地区での空気感が圧倒的。今となってはそれもある意味「かっこいい」と見る事が出来るが、もちろんファッション的にというだけで、この後もLA暴動が起こったりするところをみると、なかなか本質的な状況は変わらなかったのだろう。今では黒人が大統領になったり、黒人の事を「Black」なんて呼ばず「African American」と呼ぶなど、色んな変化は出ているのだろうが、社会的な状況もちゃんと変化しているのだろうか。そういえばこの映画でステージでのMCを務めるのは何度も大統領候補になりながら実現しなかったジェシー・ジャクソン(Jesse Jackson)牧師(当時)だ。
自分が少しアメリカにいた80年代はまだ「African American」なんて言い方は全然していなかった。いま日本でも「キチガイ」と表現出来なくなってきたりとやたら言葉狩りがあるが、こうして言葉が隠れてしまった時っていうのは、得てしてそれに付随する問題が表面から隠れただけの時が多い気がする。現在のアメリカは本当に良くなっているのだろうか。
アメリカ滞在時、中堅都市のダウンタウンをうっかり1人で歩いてしまった時に、黒人の野郎に絡まれてカツアゲされそうになった事を思い出した(笑)。←ビビったが無事逃げた
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