ーアメリカン・スナイパーーアメリカン・スナイパー
2014年 アメリカ 132分
クリント・イーストウッド監督 ブラッドリー・クーパー (クリス・カイル)シエナ・ミラー (タヤ・カイル)ルーク・グライムス (マーク・リー)ジェイク・マクドーマン (ビグルス)
【解説】
アメリカ軍で最も強い狙撃手と呼ばれた、クリス・カイルの自叙伝を実写化したドラマ。アメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズ所属のスナイパーであった彼が、イラク戦争で数々の戦果を挙げながらも心に傷を負っていくさまを見つめる。メガホンを取るのは、『ミリオンダラー・ベイビー』などのクリント・イーストウッド。『世界にひとつのプレイブック』などのブラッドリー・クーパーが主演を務め、プロデューサーとしても名を連ねている。戦争とは何かを問うテーマに加え、壮絶な戦闘描写も見もの。
【あらすじ】
イラク戦争に出征した、アメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズの隊員クリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)。スナイパーである彼は、「誰一人残さない」というネイビーシールズのモットーに従うようにして仲間たちを徹底的に援護する。人並み外れた狙撃の精度からレジェンドと称されるが、その一方で反乱軍に賞金を懸けられてしまう。故郷に残した家族を思いながら、スコープをのぞき、引き金を引き、敵の命を奪っていくクリス。4回にわたってイラクに送られた彼は、心に深い傷を負ってしまう。(シネマトゥデイ)
【感想】
昨年は「ジャージー・ボーイズ」で、アメリカンドリームを追いかけた人の浮き沈みを見事に見せてくれたイーストウッド監督。
今回はノスタルジーやセンチメンタルが一切入る余地のない、イラク戦争の現場を生きた伝説のスナイパーの一生を、飾ることなく見せてくれました。
その手腕は確かで鋭い。
幼い頃、父親から狩猟の手ほどきを受け、大切なものを守るために闘うという精神を教えられたクリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)。
アメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズに志願し、厳しい訓練を受け、イラク戦争に派兵される。
「味方を一人も殺させない」という信念の元に一発必殺のスナイパーとして、味方からは信頼を得るが、敵からは懸賞金がかかる悪魔と呼ばれた。
カイルの不在は、アメリカで待つ妻のタヤ(シエナ・ミラー)と幼い子供たちとって、過酷な別離の時間だった。
しかも戦争から返ってきた夫の心は家庭にはなく、戦場に置いたままになったいた。
クリスの派兵は計4回に及んだー。
イラク側にはムスタファと呼ばれる狙撃手がいて、ストーリーが進むとともにクリスとの対決に照準が合わされて行きます。
でも、そのムスタファがかなりのイケメンで、彼にも妻や幼い子供がいることが、ほんの短いショットで紹介されます。
しかも彼はオリンピックで金メダルを獲ったシリア人ということも語られていました。
憎い敵というだけではない、肉付けされた人間として登場しているところもポイントだと思いました。
ムスタファの存在も含めて、いまのイスラム国問題のはじまりということが示唆されて、とても興味深いことでした。
クリスはムスタファを狙撃し、命からがら前線から脱出、除隊を決意して帰国します。
でも、ここからがクリスの本当の苦しみが始まるのです。
PTSDに悩まされ、家族との生活さえ危ぶまれる事態に。
そして、自分の使命を見つけたのが、同じようにPTSDに苦しむ元兵士たちの支援でした。
そして、ある元兵士の支援に関わり、その人に殺されてしまうのです。
ラストシーンは、本物のカイルの葬送のパレードのシーンでした。
たくさんの人が沿道に集まり、カイルの亡骸を見送っていました。
エンドロールに、ご本人のカイルとタヤの写真がありました。
ブラッドリー・クーバーよりかっこいいカイルさん。
美人の奥さんのタヤさんでした。
アメリカのイラク攻撃は一体なんだったのか?
回避できなかったのか?
今更ながらに悔やまれる歴史ではないでしょうか?
この戦争の処理が未だに終わらず、さらに状況を複雑に困難にしています。
とうとう日本人も犠牲になりました。
宗教問題?
国境問題?
いやいや、そうでは無いでしょう。
利権と覇権の争い。
戦争の理由はそれしかないのに。
ご当地の人々の苦しみは私が想像もできないくらい深いものですよね。
いつになったら、この地に平和が来るのか。
暗い気持ちになります。
アメリカ人にとってのイラク戦争も、社会全体に深くて暗い悲しみをもたらしています。
戦争なんて、何一ついいことが無いのは重々承知で、止められないものなのですね。
この重いテーマを、エンタメ作品として見事に昇華させたイーストウッド監督。
素晴らしいの一言です。
オススメ。
ほかの兵士と違って、スコープで相手も顔を見て、撃たれる瞬間まで確認できるスナイパーは、ほんとうに殺したという実感が強いですよね。
殺すべき相手のみを殺した、後悔してない、と言い放つけど、そうでも自分に言い聞かせてないと辛すぎるものね。
カイルさんを演じるため18キロも増量したというクーパーさん、ほんとにがっちりした頼りがいのある兵士って感じでした。
彼も、自分が殺さないと味方が殺されるからという使命感でやっていて、たくさんの命を救ったという実感を信じていたのでしょうね。
それでも、心のどこかでは何をしたかはわかっていたはず。
切ないことです。