“科学技術書・理工学書”読書室―SBR―  科学技術研究者  勝 未来

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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「水を科学する」(川瀬義矩著/東京電機大学出版局)

2013-02-19 10:34:39 |    化学

 

書名:水を科学する

著者:川瀬義矩

発行所:東京電機大学出版局

発行日:2011年4月20日第1版第1刷

目次:第1章 水の役割—地球は水に支配されている—
     1 人間にとって重要な水
     2 水の循環が地球の気象を支配している
     3 おいしい水と健康によい水—おいしい水を求めて—
     4 食品の水—料理の味も水次第—
    第2章 水は特殊な液体—水の構造と性質—
     1 水分子の構造—極性を持つ構造—
     2 水の状態—通常の温度と圧力で固体,液体そして気体にもなるめずらしい物質—
     3 水の特性—水は特徴的な性質を多く持った不思議な物質である—
     4 重水と軽水—重水は軽水よりも特異な水—
     5 超臨海水—液体であって気体でもある流体—
     6 高温高圧の水(亜臨界水)と高温高圧水蒸気—反応性に富んだ水—
    第3章 機能水—活性化の方法と利用法—
     1 自然による機能化—自然が活用化した水の利用—
     2 人工的な機能水—意図的に活性化した機能水—
     3 科学的根拠が示されていない機能水—いろいろある「不思議な水」—
    第4章 これからの水と人間—環境に優しい水—
     1 健康に役立つ水
     2 環境に役立つ水
     3 エネルギーに役立つ水

 よく地球は、“水の惑星”と言われる。これは生命が存在できる源が水であり、水が存在しない星には、原則として地球上に見られるような生命は存在しない。そのため、現在、火星で行われている探査では、かつて水が存在していた証拠を探ろうと、懸命な活動が行われている。考えてみると、人間は液体である血液の循環で生命を保っているし、植物も根から水分を吸い上げ、高いところにある葉っぱへ、くまなく養分を送り届けることによって生命を維持している。何故、これが可能かというと水の持つ毛管現象を利用しているのである。もし水がなければ、人間でも、動物でも、植物であっても、全身に養分を送り届けることはできない。そんな重要な水ではあるが、意外に水に正面から取り組んだ書籍は多くはない。特に一般向けに体系的に書かれた啓蒙書に至っては、あまり見かけない。

 そんな、分りきっているようで、実は分り難い水の正体を、平易に解説したのがこの「水を科学する」(川瀬義矩著/東京電機大学出版局)である。平易といっても化学的に厳密に定義をしながら体系的に書かれているので、化学専攻の学生にも大いに読み応えはあろう。例えば「水の特性—水は特徴的な性質を多く持った不思議な物質である—」を見ると、次のように水の特性が紹介されている。①水は氷になって体積を増やす―4度Cの不思議―②水の融点は一般の物質に比べて異常に高い―大きな熱を奪う水―③水は比熱(熱容量)が高い―水は暖まり難く冷め難い―④水の表面張力は多きい―体のすみずみまで血液が行き渡る―⑤水の粘度は温度が高くなると減少する—流体の流れやすさ—⑥水は物質を溶かしやすい—物質を溶かして輸送する—。

 一般的に水道水は不味いと言われる。では、何が原因かと問われれば、普通は、塩素と答えがちだが、実は違っている。不味い水の原因は、塩素そのものの臭いではなく、塩素と水中に含まれているアンモニアと結合してできた三塩化窒素などの化合物によるものだそうである。上水道には、多量の塩素が含まれているが、それは殺菌のため。塩素は水中に長時間残留する性質があるため、送水中の細菌による再汚染を防ぐことができるのである。オゾンの殺菌力は強いが、塩素のように殺菌力は持続しないため、オゾンだけの殺菌力では不十分なのである。というわけで、現時点での最良案はというと、塩素消毒とオゾン消毒を併用し、さらに水道蛇口で中空糸膜フィルタを使う方法である。我々が毎日使う水道水ですら、このように、その化学的根拠を説明してみなさい、と言われると、正確に答えられる人は意外に少ないのではないだろうか。そんな“水の常識”を教えてくれるのも、この書の特徴である。これから重要となる、水の安全性を維持するにも、水の基礎知識は欠かせない。

 今、世界は水資源の確保が重要な課題となっている。その際に必要となるのが海水の淡水化である。豊富にある海水を真水にするには、蒸発法、逆浸透法、冷凍法などがある。これらの方法を基に製品化が進められ、既に世界各国で使われ始めている。また、海洋温度差発電、波力発電、潮汐発電など、エネルギー問題の解決策としての水の活用が喫緊の課題として浮上してきており、これらに対する基礎的な知識も欠かせない要件だ。最後に、筆者は言う。「『不思議な水』がこの世の中にはたくさんある。本当に機能を持っているのであれば、実証実験を行い是非その科学的根拠を明確に示してもらいたい」と。ここでは、「π(パイ)ウォーター」「波動水」「電磁場処理水(磁気処理水)」「活性水素水」が取り上げられており、それぞれの疑問点が挙げられている。少し前、テレビの広告で盛んに「マイナスイオン」という言葉が使われていた。「『マイナスイオン』とは何?『マイナスイオン』が体にいい根拠は?」ということは、そっちのけで商品のPRに使われていたのだ。今、「不思議な水」の正体の解明が待たれる。この書は、化学的な観点から水を厳密に定義し、その上に立って、我々の生活での水の役割を平易に解説した、水をテーマにした貴重な書籍である。
(勝 未来)


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