東京大学 大学院工学系研究科 化学生命工学専攻の大平 高之 助教、蓑輪 恵一 大学院生、鈴木 勉 教授のグループは、超好熱性アーキアのtRNAの可変ループ内の47位から新規のRNA修飾である2′リン酸化ウリジン(Up)を発見した。生化学的な解析から、この修飾がtRNAに熱安定性に寄与し、さらにRNA分解酵素に対する耐性を付与していることを明らかにした。
Up修飾によるtRNA構造の安定化機構を解明するため、東京大学 大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻の富田 耕造 教授らと共同で、X線結晶構造解析を行い、アーキアtRNAの立体構造を1.9Åの高分解能で決定した。Up修飾は可変ループにフレキシビリティを与えるとともに、主鎖の回転を防ぐことで“南京錠”のようにtRNAのコア領域が熱変性するのを防ぐ働きがあることが示された。
実際に、結晶構造の中に、Up修飾によって安定化された非標準的なコア構造を持つtRNA分子が見いだされている。すなわち、Up修飾が準安定なコア領域の構造を安定化することでtRNAの熱変性を防ぐという、これまでに知られていなかったRNA構造の安定化原理を見いだした。
さらに同研究グループは、Up修飾酵素(writer)としてArkIを同定し、東京工業大学 生命理工学院の福居 俊昭 教授らとの共同研究により、アーキアの遺伝学的な解析を行うことで、Up修飾が超好熱性アーキアの高温環境への適応に寄与していることを明らかにした。
また、生化学的解析から、ArkIはたんぱく質リン酸化酵素ファミリーに属する新規のRNAリン酸化酵素であり、速度論的解析から、リン酸化反応の律速はATP濃度であり、細胞内のエネルギー状態を感知してUp修飾が導入される可能性が示唆された。さらに、X線結晶構造解析により、ArkIの立体構造(1.8Å)が解かれ、活性中心の構造やRNAの認識に重要なアミノ酸残基が特定された。
さらに、同研究グループはUp修飾の脱リン酸化酵素(eraser)として、KptAを特定し、速度論的解析から、KptAがtRNAからUp修飾を効率よく脱リン酸化する活性を持っていることを突き止めた。さらに、KptAが細胞内においてもUp修飾のeraserとして働くことを証明した。この結果は、ArkIとKptAの両方を持つ生物種においてはtRNAの構造や機能がUp修飾によって可逆的に調節されている可能性を強く示唆する。<科学技術振興機構(JST)>