産業技術総合研究所(産総研)生物プロセス研究部門環境生物機能開発研究グループ 五十嵐 健輔 研究員、生物資源情報基盤研究グループ Nobu Masaru Konishi 研究員、生命工学領域鎌形 洋一 領域長補佐は、デュッセルドルフ大学、ストラスブール大学、マックスプランク石炭化学研究所、シャリテ・ベルリン医科大学と共同で、鉱物を触媒として用いて水素(H2)と二酸化炭素(CO2)から容易に有機物が合成できることを発見し、この反応によってできた有機物が生命誕生の基となった可能性を提案した。
生命は有機物で作られているが、最初の生命が誕生する際の有機物がどのようにできたのかについては謎が多かった。
これまで、単純なガスから有機物が合成され、その集積を元にして生命が誕生したとする仮説が有力であった。地下から熱水が噴出する熱水噴出孔は、原始の地球にも多くあり、そこにはH2とCO2、触媒となりうる鉱物が豊富にあるので、生命の起源が誕生した場所の最有力候補として考えられてきた。
しかしこれまで、H2とCO2からの有機物の合成は、化学工業などにより数百℃以上の極めて過酷な反応条件では実証されていたが、生物の代謝反応に近い温和な条件での反応を天然の鉱物を触媒として用い実証した例はなかった。
今回、熱水噴出孔にあったと考えられる複数種の鉱物が触媒として働き、100 ℃以下の温和な条件でCO2から有機物が合成されることを発見した。今回の成果は、生命誕生の理解へ大きく貢献すると期待される。
今後は、今回発見したCO2還元反応系で、酢酸やピルビン酸のような小分子有機物だけでなく長鎖脂肪酸や核酸のような分子量の大きい生体分子の合成が可能かを検証していく。(「産業技術総合研究所」ウェブサイトより)