“科学技術書・理工学書”読書室―SBR―  科学技術研究者  勝 未来

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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「新しい物性物理」(伊達宗行著/講談社)

2012-10-15 10:38:11 |    物理

書名:新しい物性物理―物質の起源からナノ・極限物性まで―

著者:伊達宗行

発行所:講談社

発行日:2005年6月20日第1刷

目次:第1章 物性物理学の誕生
    第2章 物質の起源
    第3章 物性の出発点
            1.電子の素顔
      2.原子の構造 
    第4章 物質の構造
      1.原子の結合
      2.構造を決める
    第5章 電気伝導の世界
      1.半導体
      2.超伝導
    第6章 磁気の世界
      1.磁気学序説
      2.磁性体 ほか
   第7章 物性の新局面
      1.ナノ科学の展開
      2.カーボン科学の台頭 ほか
   第8章 極限科学
      1.温度の世界
      2.圧力の世界 ほか

 最近、「理化学研究所が、113番元素の3回目の確認の成功により、アジア初の命名権に一歩近づく」というニュースが飛び込んできた。既に理化学研究所は、113番元素の2回の確認をしてきたが、これまで国際的な認定を受けているまでには至っていない。しかし、今回3回目の確認ができたことで、周期表に日本発の名前を、アジアの国として初めて書き加えることができる可能性が出て来たのである。。1869年、ロシアのメンデレーエフが「元素周期表」を提唱して以来、自然界に存在する元素は、原子番号92番のウラン(U)まで発見されていた。93番以降は人工的に合成され、米国、ソ連、ドイツ、そして最近では114番と116番についてロシアと米国の共同研究グループが存在を報告、元素発見の優先権について国際的な認定を受けている。誰もが学校で学ぶメンデレーエフの「元素周期表」に、日本発の名前が付けば、あの覚えるのが大変で、試験の前に一夜漬けして覚えた名前も、比較的容易に覚えられるようになるかもしれない(?)と思うと、是非とも、メンデレーエフの「元素周期表」に日本発の名前が付けられることを祈るばかりだ。

 「新しい物性物理―物質の起源からナノ・極限物性まで―」(伊達宗行著/ブルーバックス)は、固体、液体、気体からなる物質の世界を知るには最適な書である。百種類を超える元素を組み合わされて、数百万種といわれる物質が生まれるわけであるが、これらを体系だって理解することは並大抵のことではできない。しかし、それは物性物理と呼ばれる新しい学問体系が成立したことによって、比較的容易に理解することが可能となったのだ。この書は、そんな物性物理学の最新成果に基づいて書かれたものだけに、初心者から専門技術者までに至るまで、物質とは何ぞやということが、適切な図表を交え、分りやすく解説してある。難しい数式は最小限に止められているので、科学の教養書としても読みこなすことが可能だ。物性物理自体、20世紀の革命児である量子論と相対論の成立を受けて始まった新しい学問体系である。つまり、量子論と相対論の登場で初めて物質の理解が深まったのである。

 ところで、物性物理という言葉は、日本発の言葉であることが同書の冒頭で紹介されており、少々驚く。科学技術の用語は、そのほとんどが欧米で生まれたものが多く、日本発と言われると戸惑うことも事実である。「英語では物性物理学は、固体物理学、または凝縮体物理学と言う。しかし、英語は実体を完全に表していない。固体に限らず、液体も研究対象であるから固体物理学では不十分である。また凝縮していなくても、例えば気体も重要な研究対象である。結局、英語は実体を表せない、ということになる」と筆者の伊達宗行氏は言う。何故、そうなったのか。西欧は、根本物質を求め続け、その結果として固体とか凝縮体などの物質の行き着く。これに対して東洋はあくまで物質の「性質」を求める。この2つの捉え方の違いが、固体物理学または凝縮体物理学、そして物性物理学という言葉の相違になったという。日本で物性という言葉が使われたのは明治5年というからびっくりする。しかし、物性と言う言葉は、その後一時忘れ去られていたが、量子論と相対論の登場で、永宮健夫阪大教授と久保亮五東大教授の二人が「物性論」という言葉を再び復活させたのだという。

 同書の第8章は、極限科学の話が紹介され、これからの物性物理学の進む方向が示唆され興味深い。例えば、レーザー冷却が紹介されている。レーザーで原子を超低温まで冷却する。そんな破天荒なことが、と思われる研究が現れ、固体では実現できていないナノK領域に初めて到達することに成功した。また、圧力の世界では、瞬間的な超高圧については、上手につくられたテトラアンビルによる圧縮装置で、数十万気圧の発生が可能となっている。超高圧研究最大の目標は、水素の金属化、そして超伝導の発見という。一方、超高真空については、総合技術の集約によって10のマイナス10乗気圧以下に達している。強磁場についても研究が続けられている。オーステナイトに強磁場をかけると、マルテンサイトと呼ばれる結晶に構造が変わる。YbB12という化合物は半導体であるが、これに磁場をかけるとバンドギャップが消失して、約50テスラで金属となるという。これからも物性物理での飽くなき探求の旅は、続いていくことになる。(勝 未来)

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