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経済学のすすめ21

2011年08月07日 | Weblog
財政・金融政策

 IS―LM分析によって政府の財政・金融政策がどのような効果を持つかを考察する。

 「IS曲線」の稿で述べた通り、政府が財政支出(G)を増加させるとIS曲線は右方に⊿G/(1-c)水平にシフトする(cは限界消費性向)。IS曲線のシフトだけ見れば、国民所得は財政支出の乗数効果分向上するが、同時に貨幣市場では貨幣需要が増加し、需給を均衡させるために利子率が上昇する。すなわち右上がりのLM曲線上をIS曲線が右方へ移動することになり、その交点まで利子率が向上すると共に国民所得の増加は引き戻されることになる。これは利子率の向上が民間投資を減少させるからであり、この現象を「クラウディングアウト」という。IS曲線またはLM曲線それぞれ単独の分析では解析できない現象である。

 この「クラウディングアウト」の影響はLM曲線の傾きに依存する。LM曲線の傾きが緩やかであれば、すなわち貨幣需要の利子弾性率が大きいと、貨幣市場の不均衡を解消する利子率の上昇がより小さく抑えられるため、投資の減少は少なく、国民所得増加の引き戻しは少なくなる。クラウンディングアウトがあるとしても、政府の財政支出(財政政策)は消費の乗数効果の方が大きいため、通常国民所得の向上(景気上昇)に効果的である(財政政策は有効)。

 また「流動性の罠」*74)が発生している状態(LM曲線が水平部分*75))ではクラウディングアウトは発生しない*76)。この時も財政政策は有効となる。逆にLM曲線が垂直(貨幣需要が利子率に依存しない)になる場合には、財政支出が増大した結果IS曲線が右方シフトしたとしても、利子率を引き上げるだけで国民所得の増加に全く貢献しない*77)ことが分かる(財政政策は無効)。

 次に、政府の金融政策の効果をIS-LM曲線から見る。金融政策には3つの手段*78)があるが、いずれも貨幣供給(マネーサプライ)を操作する政策である。例えば、これは前稿注釈*69)に最近は効果が薄いと書いたが、公定歩合の操作によって、この利率を下げれば銀行は借りやすくなってお金が市中に出回りやすくなる。公開市場操作に依る買いオペレーション*79)を行えば、これも市中に出回るお金が増える。また日本銀行が支払い準備率*80)を下げれば、民間銀行が貸し出しに回せるお金が増えるのでこれもまた出回るお金が増える(いずれも金融緩和)。

 貨幣供給の増加はLM曲線を右方にシフトして、IS曲線との交点まで利子率は低下、国民所得は増加する*81)。貨幣供給量の増加によって利子率が低下し、結果として投資を促して国民所得を増加させるのである(金融政策は有効)。この時、IS曲線の傾きが緩やかであれば、利子率の低下は少なく国民所得の増加は多くなる。これはIS曲線の傾きが緩やか、すなわち投資の利子弾力性が大きいため、利子率の割に多くの投資が生じるためと考えられる。LM曲線の傾きについても同様である。これらは一般物価水準が一定という前提であり、一定の貨幣供給下での物価の変動は、実質的な貨幣供給の増減と考えられる。

 財政支出を増やし、貨幣供給を増加させるのは拡張的な政策であり、その逆を行えば緊縮的な政策となる。景気が悪くなれば拡張的な政策を、景気が過熱気味になれば緊縮的な政策を行うことで、景気循環による国民所得の変動を抑制し、安定的な経済活動を志向できることをIS-LM分析は理論的に明示してくれるのである。財政・金融政策(経済への国家介入)は総需要(管理)政策といい、ケインジアン(ケインズ経済理論支持者)は、特に不況期に総需要政策によって国民所得を増大させることを重視している。







*74)前稿注釈*70)参照
*75)貨幣需要の利子弾力性が無限大
*76)投資の利子弾力性がゼロ(利子率が増加しても投資が減少しない)の状態でもクラウンディングアウトは発生しない。
*77)政府投資が増えた分民間投資が減少するという理屈。しかし、貨幣需要が利子率に対してまったく不感応的で、LM曲線が垂直になるというのは、投資需要が利子率に関して無限に弾力的であり、IS曲線が水平になるというのと同様、あまりにも極端な仮定である。
*78)金利政策、公開市場操作および支払い準備操作の3つである。
*79)買いオペ。日本銀行が手持ちの債券を民間金融機関から購入すること。売りオペはその逆。
*80)民間銀行は法定準備制度によって、預金から一定割合を日本銀行に無利子で預け入れることが義務付けられている。
*81)前稿の注釈*70)のように「流動性の罠」を生じている場合には、金融政策によるLM曲線のシフトも利子率に影響を与えず、国民所得も増えない。すなわち金融政策は無効となる。

 本稿は、西村和雄編「早わかり経済学入門」東洋経済新報社1997年刊、福岡正夫著「ゼミナール経済学入門」第3版 日本経済新聞社2003年刊などを参考に編集したものです。

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