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「現場力」再考 第7回

2019年10月19日 | ブログ
研究開発の現場力

 今年のノーベル化学賞には旭化成の吉野彰さん(71歳)の受賞が決定した。企業マンとしては島津製作所の田中耕一さん(1959- )以来とのこと。日本人27人目の快挙。日本はアジアの国としてはダントツのノーベル賞受賞数である。

 吉野さんは「旭化成の社員家族が喜んでくれれば嬉しい」のような話もされていたが、関係者だけでなく日本人誰もが誇りに思い嬉しい受賞である。

 ただ、ノーベル賞は成果を出した時期と受賞までに時差が大きく、今後も継続して受賞者を出すには、現在の研究体制なり若い研究者の才能・努力が問われるわけで、近い将来には、これまでほど科学分野で日本人受賞者は出ないのではないかとの懸念が広がっている。

 ひとつに研究者の数。大学で博士課程まで進学する者の数が減っているという。博士課程まで進んでも就職にはあまり有利にならず、企業の研究所では理工系大学の修士課程で十分だという認識は50年前から変わっていないように思う。

 国別の科学技術力を比較する時、研究者が学会などに投稿する論文を他の研究者がどの程度引用しているかを指標にするらしい。論文引用数の上位研究者数の2014年と2018年の比較で、上位国は米国、英国、中国、ドイツ、オーストラリア、オランダと続くが、日本は2014年のドイツに次ぐ5位から2018年12位まで転落している。(日経ビジネス2019.10.07号)

 しかし、主要国の研究開発費の比較でみると、確かに米国、中国が急速に増加させて、わが国に水を開けているが、日本は年々微増ながら中国に次ぐ3位で、同じく微増のドイツもフランスも英国さえも継続して上回っている。

 最近、わが国の研究機関のノーベル賞受賞者の先生方から、日本では研究投資が少なく、若い研究者を養えず、頭脳流出もあり、その点でも将来の展望に期待が持てないとの発言を聞く。しかし、世界で米国、中国に次ぐ研究開発費を投資していることも事実で、英国やドイツ、オーストラリアなどに負ける言い訳が立たない。

 どこの国も同じあろうけれど国家予算をどのように使うか。各種団体の分捕り合戦が毎年行われており、医師会は医師不足を言い立て、弁護士会はその育成システムを維持しようと画策する。科学技術分野の団体だって、科学立国日本の維持にと予算獲得に奔走する。

 確かに何を成すにも先立つものは必要である。しかし、私の企業時代の研究所勤務時の経験からすれば、潤沢にお金が回れば実験担当者まで贅沢となる。私が勤務した研究室など最低限の費用で研究をやっていた。個人で言えば、業務に使う電卓なども自分で買った物で、残業はあまりなく、明日の実験条件や構想は、退社後も2、6時中考えていたものだった。関連プラントが稼働しても当該工場に出張にも行かせて貰えなかった。

 しかし、私の当時の直接の上司は、研究成果でその後紫綬褒章を受けた(2004年)。旭化成のこの度のノーベル賞受賞吉野彰さんの紫綬褒章と同時期である。

 研究開発費用も使いようである。少ない費用で大きな成果。それが研究活動の現場力である。




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