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中小企業白書を読む第9回

2009年08月25日 | Weblog
仕事のやりがいを求めて

 「企業は人なり」、「人は城 人は石垣 人は堀」。現代の企業組織にあっても戦国の世にも「人」こそ最重要といわれ続けているのだけれど、ほんとうに大切に思われているかといえば、上に立つ人の器量次第のところがある。

 経営学においては、組織論と共に人間研究の成果が企業組織に活用されてきた。19世紀末のアメリカで「テーラーの科学的管理法」が生まれたが、その後20世紀に入りメーヨー、レスリスバーガーを中心とするグループによる有名な「ホーソン実験」によって人間的側面の重視が謳われた。

 また20世紀も中半に入り、ハーズバーグによる「動機づけ-衛生理論」が生まれた。組織構成員のやる気を起こさせるものとして、仕事の達成感や承認、仕事への責任、昇進などを「動機づけ要因」として捉え、満たされなければ不満となってやる気を阻害するけれど、それが改善されたからといって積極的なやる気の基にはならないものが「衛生要因」だとし、給与や労働条件、作業環境などをあげている。

 2009年白書は、第3章「中小企業の雇用動向と人材の確保・育成」の第3節で、中小企業の賃金制度における「年功賃金と成果主義賃金」それぞれの狙いや従業員に与える影響を述べている。また第4節には「人材の意欲と能力の向上」についての調査レポートがある。

 まず、企業が正社員の賃金体系において重視している賃金制度を、企業の従業員数規模別に調べており、全体および製造業と非製造業分けてみても、「従業員規模の大きな企業ほど、年功序列を重視している企業の割合が高くなる傾向」と結論づけている。しかし、その差は数%で統計的有意と言えるのか微妙である。いずれも年功を重視する企業は3割から4割であり、成果給重視の傾向にあるようだ。しかし、社員の側は若干保守的で特に従業員301人以上の企業では年功序列重視が50%を超えている。

 企業が成果給を重視する理由としては、「従業員の意欲を引き出すため」および「人事評価の重要性や納得性を高めるため」の2項目で90%を超えており、その他の理由はせいぜい数%である。そして、成果給導入による従業員への影響の企業側の認識として「仕事に対する意欲が上がった」が50%を超えている。ハーズバーグ理論に当て嵌めれば、成果を認められた者にとってはやはり「やる気」の源泉となるということか。

 一方、成果給を重視した賃金体系導入にあたって、企業側も苦労している。多くの企業で「成果を評価するための制度の設計が難しい」と感じ、特に従業員規模の大きい企業ほど、その運用の難しさを感じている。私なども経験があるのだけれど、成果を出したことを直接の上司は認めてくれても、最終的には普通の評価にしかならないことばかりであった。目標管理制度なども体裁だけの形式になっている企業が大企業ほど多いのではないかと感じる。ノーベル賞の研究成果も、企業内から評価されていたわけではない事例があるごとくである。

 「働く人材の仕事のやりがい」について、白書はどう捉えているか。内閣府「国民生活選好度調査」60項目のうち「仕事のやりがい」の満足度をみている。1978年から2005年の間、仕事についての満足感を持つ者の割合は低下傾向にある。81年には31.9%の人が満足していたが、99年では16.1%に凋落。少しずつ景気が回復していた05年で16.6%となっている。その他「雇用の安定」、「収入の増加」や「休暇の取りやすさ」の項目もいずれも満足する人の割合を大きく下げている。まさに日本が元気だったイメージのある70年代から80年代が、数字で確認されている。

 それでは、正社員の仕事のやりがいの源泉は何か。大小企業を問わず、「賃金水準(昇給)」を一番にあげた割合(40%程度)が他を圧倒し、続いて「仕事をやり遂げた時の達成感」(18%程度)が続く。その他、「社内での評価」や「仕事を通じた自己実現」、「裁量の大きさ」などがあげられているが、昇進は昇給に水をあけられており、ハーズバーグ理論に少し反する気もするけれど、功名より実を求める現代勤め人気質の一端が伺われて面白い。
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