MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

どうにもとまらない

2013-10-27 15:11:25 | 健康・病気

遅くなりましたが 10月のメディカル・ミステリーです。

10月15日付 Washington Post 電子版

Woman’s nonstop drenching sweats were a medical mystery 女性のとめどないびしょびしょの発汗はメディカルミステリーだった

Nonstopdrenchingsweats
家族写真: Janet Ruddock さんはびしょびしょになってしまう予測不可能な発汗発作に今はもう悩まされることはない。

By Sandra G. Boodman,
 Janet Ruddock さんはショックだった:彼女は初めての孫との対面を夢見ていたのだが、今やその人生に一度の経験が、それまで十年間近く彼女の生活を狂わせてきた厄介な問題によって台無しになってしまったのである。
 2010年6月、当時59才だった Ruddock さんと夫は、生まれたばかりの孫に会うためにワシントンからカナダ・ブリティッシュコロンビア州のバンクーバーまで飛行機で向かっていた。しかし、到着して間もなく、Ruddock さんの“どうにもとまらない”発汗が増悪した。
 彼女がロッキングチェアに座ったとき、汗が頭部と上半身から吹き出し、彼女のシャツを濡らし、生後4週になる乳児に滴り落ちた。
 「私はワッと泣き出しました」と Ruddock さんは思い起こす。「思い出せることは、私だけでなくこの可哀想な赤ちゃんもびしょびしょになってしまったということだけで、普通ならいつまでも記憶に留めておくはずの大切な瞬間が台無しになったのです。二度と取り戻すことはできないのです」
 その出来事は、Ruddock さんに自殺を招きかねないうつ病をもたらした。それまでの8年間、彼女は検査を受け、薬を飲み、彼女の頭部と上半身に引き起こされる予測不可能な激しい発汗で受診した多くの医師たちの困惑、そして懐疑的な態度に耐えてきた。
 その後彼女は悩みを親戚に打ち明け、精神科医への受診を始めた。偶然にもその数ヶ月後、彼女自身と酷似した経験を持ち、その経験から望んでいた道標を彼女にもたらしてくれることとなった女性のことを知るのである。
病)です」と、めずらしい、あるいはきわめて興味深い疾病に対して用いられる医学的俗語を使いながら、ワシントンの元内科医 Charles Abrams 氏は言う。「入ってくるなり『私はこれをインターネットで見つけました』と患者に言われるのは医師としてたいてい嫌なものです」と Abrams 氏は言う。彼は昨年引退するまで Ruddock さんを治療した。「しかし時に、注意を引かれることもあるのです」

‘Not what the rest of us get’ 『他の人たちが経験するものとは違う』

 カナダの外交官Frank さんを夫に持つ Ruddock さんは、2001年から時々出現していた一過性熱感(ほてり)と考えていた症状と付き合って生きて行こうとしていた。
 ある夏 Ruddock さんは、友人の別荘で座っていたとき、突然5分間汗だくになるというエピソードを経験した。「どうしたの?」彼女の友人は心配して尋ねた。夫の在外勤務でアフリカの3ヶ国で生活していたときでさえ似たような症状を経験したことがなかった Ruddock さんは、これは閉経の典型的な症状だと思うと答えた。
 「これは他の人たちが経験するものとは違うわ」Ruddock さんは友人がそのように言ったのを覚えている。「主治医は何て言ってるの?」
 そんな症状は時間とともに消失するだろうと考えた Ruddock さんは主治医に相談していなかった。症状は程度に幅があり、持続時間は数秒から5分以上にまで及んだ。しかし一年経っても、発汗は和らぐ徴候を見せず、人前で起こると段々と恥ずかしい思いをするようになった。
 彼女はオタワの昔からの主治医である開業医を受診した。当時彼女の家族がオタワに住んでいたのである。その医師はくまなく診察を行ったが、何も異常を認めなかった。Ruddock さんにはホルモン補充療法が施された。これはひどい一過性熱感の治療にしばしば用いられるものだ。最初の薬剤で効果がなかったため、2番目の薬剤の内服を始めたがこれもあまり効果がないように思われた。
 Ruddock さんは症状日記をつけていたが、気付かされるパターンは特になかった。彼女の発汗は気温、ストレス、活動性、あるいは時刻によって誘発されることはなかった。また多くの閉経女性と異なり、寝汗を経験することはなかった。軽度の症状だけの日々が続く比較的調子の良い数週間があるかと思えば、発汗があまりにひどくて、Ruddock さんによれば「まるでシャワーから出てきたところのような」ときもあったという。
 奇妙なことに、彼女の手のひら、腋、そして足の裏は乾燥したままだった。
 2003年、彼女は内分泌専門医に紹介された。Ruddock さんによると、その医師はエピソードの一つを聞いて異常であることを認めたという。その専門医は彼女に対して、おびただしい発汗をもたらし得る他の疾患、たとえばいくつかの癌、糖尿病、結核などの感染症、あるいは甲状腺機能亢進症などについて検査した。また彼女には MRI、CT、および核医学検査が行われた。

Tank tops in January  一月でもタンクトップ

 2004年までに「3人の非常に優秀な医師が何も発見できませんでした」 Ruddock さんは、産婦人科医、総合診療医、内分泌専門医を挙げてそのように言う。凍えそうに寒いオタワの冬の間も、彼女は自宅でタンクトップを着ており、それを目の当たりにする友人たちの心配もうまくかわせるようになっていた。しかし、一月のさなかに夏服を着てレストランに行くことに気恥ずかしく感じるようになっていた。
 親しい友人の幾人かは、“メルトダウン”と自身が呼んでいた彼女の症状について知っていたが、Ruddock さんは身近なグループ以外の人たちにはそのことを説明しなかった。「自分に重大な発汗異常があることを人に言いたくなかったのです」と彼女は言う。「恥ずかしいことだったからです」
 2005年になると病気の中心は彼女の不安神経症に移って行った。Ruddock さんによると、不安はたいてい発作に対する恐怖によって引き起こされたという。彼女は精神分析医を受診し、いくつかの抗うつ薬をはじめとする一連の向精神薬を試してみた。それらは過度の発汗にはほとんど効果がなかったものの、多少不安を和らげてくれたようだった。
 内分泌専門医は一連のテストを繰り返したがやはり何も発見できなかった。発汗は過多であり、それは hyperhidrosis(多汗症)の定義に合致していとその専門医は指摘した。彼女は4つのホルモン補充療法薬のいずれも効果がないと言い、Ruddock さんが大げさに言っているのではないかということをほのめかした。その真意は明らかだった:それと付き合って生きるすべを学びなさい、だった。
 「他の多くの女性のように対処することが全くできず、ただ大げさに騒ぎ立てている閉経期女性に仕立て上げられてしまった感じでした」と彼女は言う。彼女はホルモンの内服を止め、増悪するひどい症状があってもただ頑張っていこうとした。
 2009年 ワシントンに転居する前の診察で、Ruddock さんは高血圧の診断を受けた。処方された降圧薬で発汗が減ったように感じた。彼女は加えて新たな抗うつ薬の内服を始めた。
 しかし 2010年に発汗は悪化し、コロンビア特別区の別の内科医を受診した。「出かける準備を始めようとしてお化粧をしても汗で全部流れていました」と彼女は言う。時には家を出られるようになるまで2度服を着替えなくてはならないこともあった。その医師は彼女の降圧薬の用量を増やし抗うつ薬も続けるよう指示した。
 そんなとき、バンクーバーでその発作が起こり、その数日後、シアトルのホテルで“完全な神経破綻”が起こる。「人生にそれだけの価値はなく、生きていくことができないと思い込みました」と彼女は言う。
 ワシントンに戻ると夫は彼女に精神科医を受診するよう強く勧めた。Ruddock さんはまた、医師である義理の兄弟を頼って、彼女が内服している薬剤の一覧を彼に送り、それらが問題かどうかをみてもらった。他の医師たちはそれらに問題はないと話していたのである。
 彼女の内服している抗うつ薬が原因の一端かもしれないと彼は告げた:その副作用の一つに発汗増加があった。彼女がその服用を止めたところ、少し調子が良くなりかけた。
 8月下旬のある晴天の土曜日、バージニア州アレキサンドリアの Old Town にある自宅の近所を散策しようと夫が持ちかけた。しかし彼女が2度大量発汗を起こしてしまったため夫婦は自宅まで思い足取りで戻ることになった。「ここには素晴らしいひとときを過ごしている人たちがいるのに、私はそれもできず、またこれからもできないのだろうということしか心に浮かびませんでした」と彼女は思い起こす。
 その約2時間後、Ruddock さんがベッドで横になっていると、夫が部屋に入ってきて、プリントアウトした紙を彼女に渡して言った。「君はこれだ」

Unconventional solution  例外的な解決法

 妻に有効なものを何か見つけようとインターネットを頼っていた Frank Ruddock 氏はアムステルダムの医師らによる2006年の論文を見つけていた。それには重症の特発性全身性多汗症(明らかな医学的原因のないおびただしい広範囲の発汗)がある56才の女性の症例が記載されていた。彼女は oxybutynin(オキシブチニン、商品名ポラキス)を内服するとその症状が治癒していたようだった。この薬剤は尿意切迫を治療するために彼女に投与されていた。
 それまで発汗があまりにひどかったためタオルを所持しなくては外出できなかったこの女性はこの薬が始まって6ヶ月後にそのような問題がなくなった。オランダの医師たちは、この薬の抗コリン作用~神経伝達物質のアセチルコリンを遮断し乾燥作用を持つ~による可能性があると推察した。しかし、この薬はヨーロッパや米国では多汗症に治療で用いることは認められていなかった。『[その有効性を示した]事例報告がいくつか文献に存在しているに過ぎない』と彼らは記載し、多汗症患者におけるこの薬の安全性と有効性を検証する目的でプラセボ対照臨床試験が行われることを求めている。
 発汗が身体の一部に限られている症例と異なり、全身性多汗症ではホルモン剤以外にはほとんど治療法がない。発汗が腋窩、手掌、あるいは足などに限局している場合は、ボトックス注射、発汗抑制薬、さらには手術での治療が可能である。
 Ruddock さんはこの論文を読み衝撃を受けた。精神科医の勧めにより彼女は記事冒頭に登場した内科医 Abram 氏へ新たに受診を始めたところだった。彼はいくつかの検査を行っており、彼女の膨大なカルテをカナダから取り寄せて読んでいたが、彼女の発汗の治療法について新たな考えを持ちあわせていなかった。
 当初、Abrams 氏も Ruddock さんが鎮痛薬依存になっているのではないか、あるいは精神的疾患が発汗の原因となっているのではないかと疑ったという。彼女は疲弊し、時には活気を失っているように見えたが、彼女が表現するほど重症な様子は何も認めなかった。しかし「彼女の夫はしっかりしているように見えたし、彼は彼女のブラウスが汗だくになっているという事実を保証してくれました」と彼は思い起こす。
 「それは実に奇異でした。世間の目にさらされる外交官の妻としては格別そうだったでしょう」
 2010年9月の受診の際、Ruddock 夫妻は例の研究論文を彼に見せ、その薬を処方してくれるかどうか尋ねた。それを読んだ彼は同意した。(食品医薬品局[FDA]によって承認されている以外の使用目的、すなわち“off-label[FDA認可外]”で医師が薬を処方するのはよく見られることである)
 それまで Abrams 氏はその薬を排尿障害の患者に出してきた。Ruddock さんにはこれまでリンパ腫など発汗が症状の一つとなるような重大な疾患を除外する広範囲な検査が行われてきており、また、ある種の癌の発生と関連のあるホルモン剤など、より高い危険性が考えられる薬を飲んできた。
 「不利と思われることは何も見当たりませんでした」と Abrams 氏は言い、この病気は「明らかに彼女の生活を台無しにしていたのですから」と述べた。
 その結果は Abrams 氏を驚かせた:この薬を始めて5日後、Ruddock さんの発汗が止まったのである;それから3年になるが再発もない。彼女は今でもこの薬を毎日内服している。
 口腔内の乾燥と(発汗による体温低下ができないことでその危険性がある)熱中症のリスクが高まることを除けば、Ruddock さんは自分の生活を取り戻せていると言う。2011年、メキシコのビーチで孫と遊んだとき、一年前の初めての対面の時との大きな違いに驚きを感じた。
 彼女は“例外的”治療を考慮してくれた Abrams 氏の積極的姿勢のおかげだと思っている。「多くの医師は患者からもたらされた情報を認めようとしません」と彼女は言う。「ありがたいことに Abrams 先生は既成概念にとらわれることなく物事を考え行動する心構えをお持ちでした」
 この薬が効いた理由として Abrams 氏は、唯一のものではないが、一つのことを考えている。それは、Ruddock さんがその効果を信じていたということかもしれない。これは Placebo effect(プラセボ効果=偽薬効果)として医学の分野では広く知られている現象である。
 「彼女は症状と解決策を携えて私のところにやってきました。しばしばそれは患者にとって協調効果となるのです」と彼は言う。

たかが汗と考えがちだが、
多汗に悩まされる患者の精神的苦痛は予想以上に大きい。
多汗症の詳細については ↓ 参照。
http://www.oag-jp.com/takanshou/tiryou.html

多汗症には多くの種類があるが、
大きくわけて、全身性多汗症と、
手・足・腋・股など特定部位に発汗する局所性多汗症がある。
前者は特に治療が難しいとされている。
全身性多汗症の原因には様々なものがあるが、
一つには、生活習慣、食生活、睡眠リズムなどの乱れやストレスが
引き金となって起こる自律神経の不均衡が考えられている。
また肥満も原因の一つとして挙げられる。
肥満では、脂肪組織の増大によって体温調節が適正に行えず
発汗過多につながる。
その他、悪性腫瘍、糖尿病、痛風、更年期障害、甲状腺機能亢進症、
脳下垂体疾患、膠原病、関節リウマチ、水銀中毒などの疾病でも
全身性多汗症がその症状の一つとなり得る。
また薬剤の影響で発症する場合もある。
一方、原因不明に先天性に認められる場合もあり、
遺伝的の異常形質の症状として見られる症例もある。
局所性多汗症に対しては、
塩化アルミニウム液の塗布、
イオントフォレーシス(通電療法)、
ボトックス(A型ボツリヌス毒素)局所注射、
胸腔鏡下胸部交感神経節切除術などが行われるが、
全身性多汗症に対しては現在のところ根本的な治療法は確立されていない。
基礎疾患に対する治療、肥満の解消、
ストレスへの対応、生活習慣の改善が重要である。
精神的要因が自律神経系の異常に及ぼす影響も無視できず、
本記事の患者のように、何が効くのかわからない、
といったことが往々にして見られるのかも知れない。

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