十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

水仙

2009-03-15 | Weblog
水仙花水脱ぐ如くひらきけり     西村 薫
                              「滝」3月号 <滝集>
母が遺してくれた水仙が、幾分株を増やしながら今年も咲いている。それは、
八重咲きの淡黄色の花弁で、小さいながらもとてもお洒落な水仙だ。さて掲句、
「水脱ぐ如く」の喩えが、「水仙」の本質に触れて詩情豊かに伝わってくる。平明
な言葉で形容された水仙は、妖精のような美しさを誇っている。(Midori)

冬の海

2009-03-14 | Weblog
冬の海踊り子号に残る帽    栗田昌子
                           「滝」3月号 <滝集>
踊り子号は、JR東日本の東京駅から伊豆までの約2時間を運行する特急電車の
名称だ。孤独に悩む青年の淡い恋と旅情を描く、川端康成の『伊豆の踊り子』
にちなんで名づけられたものだろう。さて掲句、踊り子号に残っていた帽子は、
今はほとんど見られなくなった記章の光る学生帽であったに違いない。昭和初期
にタイムスリップしたような作品に、変わることない冬の海が旅情を誘う。(Midori)

薄氷

2009-03-13 | Weblog
真夜の地震くれなゐ滲む薄氷     遠藤玲子
                                「滝」3月号 <滝集>
岩手県南部を震源とするM7級の大地震、「岩手宮城内陸地震」が起こったのは、
2008年6月14日の早朝のことだった。それ以後も体感できるほどの地震が
あったのだろうか・・・。地球内部の地殻変動は、誰にも予測できないものだ。
「くれなゐ滲む薄氷」は、まさに地球表面に現れた一縷のエネルギーの放出だ。
繊巧な写生に薄氷の質感と、自然災害の静かな脅威が伝わってきた。(Midori)

若菜野

2009-03-12 | Weblog
若菜野や幌ふかぶかと乳母車     加藤信子
                                「滝」3月号 <滝集>
九州熊本では、開花予想より5日も早く桜がほころび始めた。昨日は、草萌えの
野に土筆が一面にたっているのを見つけ、懐かしさに思わず触れてみた。
さて掲句、「幌ふかぶかと」のフレーズに、乳母車の中の赤ちゃんを包む柔らかな
春の日ざしが実感として伝わってきた。お孫さんだろうか・・・「若菜野」にお孫さん
の誕生の喜び、そして健やかな成長への願いがこめられているのを感じた。

冬の海

2009-03-11 | Weblog
地球より溢れんばかり冬の海     村上幸次
                                「滝」3月号 <滝集>
冬晴れの凪いだ日の海の色は濃く深く、静かな迫力を感じさせる。水平線
に盛り上がるように押し寄せる潮は、怖いほどのエネルギーを蓄えている。
「地球」という素材はもう使い古されている感があるが、「地球より溢れんば
かり」のフレーズに新鮮な発見が感じられた。地球上に表面張力で漲って
いるかのような冬の海に、内包する生の躍動を覚えた。(Midori)

福寿草

2009-03-11 | Weblog
フェンシングの気合に触るる福寿草   小幡浩子
                                  「滝」3月号 <滝集>
フェンシングは中世ヨーロッパで発達した武技だが、18世紀にはスポーツ化し、
第一回アテネ大会以来正式オリンピック種目にもなっている。細身の刀剣の充溢
する気合に、福寿草が触れたという独自の感覚は、凛とした詩情をもたらしている。
西洋の競技と、日本の新年を寿ぐ福寿草の取合せが、若々しく新鮮に感じられた。

絵双六

2009-03-09 | Weblog
絵双六この世の外に出てしまふ   谷口加代
                               「滝」3月号 <滝集>
絵双六は、采を順に振って出た目の数によって「ふりだし」から駒を進め、早く
「あがり」に着いた者を勝ちとする遊びだ。絵双六の最初のものは、天台宗の新
米の僧に仏法の名目を遊びながら学ばせるために考案された仏法双六とされる。
駒を進めれば、極楽浄土の世界に辿り着けるのだろうか?それとも采が、絵図の
外に飛び出したのだろうか?「この世の外に出てしまふ」の滑稽の中に、自己投
影された思いがあるのかもしれない。上質のユーモアは寂しさを内包する。(Midori)

解氷

2009-03-08 | Weblog
女肘やさしくとがる解氷期     田中一光
                             「滝」3月号 〈渓流集〉
寒い地方では、川や港の氷が解けはじめると、それだけで春の訪れが実感として
感じられるものだろう。解氷とともに生物界にも小さな生命の胎動がはじまっている。
さて掲句、冬の間着膨れていた女性たちもどこか活動的に見えるものだ。
肘は、「肘を食う」「肘を張る」などと威圧的に使われることが多いようだが、ここでは、
「やさしくとがる」である。作者は、愛すべきフェミニストであるような気がした。
一光氏は、仙台市、在住。今年、第23回俳壇賞を受賞された。(Midori)

2009-03-07 | Weblog
てさぐりに春のかたちをたしかめる    石母田星人
                                  「滝」3月号 〈渓流集〉
「春」の一文字以外は、すべてひらがな表記であることに気づく。ひらがな
が、いかにも手さぐりで春のかたちを模索するかのように並んでいる。
「てさぐりに」のアンニュイな春らしい感覚、そして「たしかめる」のとらえにくい
曖昧なものを具象化しようとするどこか男性的な力強い言語感覚がとても魅
力的にひびく。散文的なフレーズに春らしい詩情を感じた。(Midori)

竹の秋

2009-03-06 | Weblog
竹の秋垂直といふ知性かな    菅原鬨也
                             「滝」3月号 <飛沫抄>
「知性」は物事を考え、理解し、判断する能力、すなわち人間のもっとも人間
らしい知的能力のことだ。それは、深化すればするほど、より高度に高められ、
次世代へと受け継がれていく。「垂直といふ知性」にそんな思いを深くした。
そして、青々と山を覆い尽くす生命の横溢の只中の、ひそやかな竹の秋・・・。
竹は、まっすぐ空に向って伸びながら黄葉の時を迎えるが、地中には、新しい
生命がしっかりと息づいている。円熟期を迎えた「滝」主宰の一句に新たなる
境地が拓かれているのを感じた。(Midori) 

「滝」のホームページ http://sky.geocities.jp/himatu2008/index.html

2009-03-05 | Weblog
いくさなき世となり軍手炭をつぐ    平田ルリ子
                                「阿蘇」3月号 <雑詠>
日ごろ、何気なく使い「軍手」と呼んでいる作業用手袋だが、軍手にも歴史があっ
た。軍手は「軍用手袋」の略称で、旧日本軍兵士が用いたことからこう呼ばれてい
るらしい。軍手の起源は江戸時代末期、鉄砲を素手で触って錆びないように兵士に
手袋をさせたことが始まりとされる。さて掲句、「軍手」と言う名前を持ちながら
軍手は私たちの生活には欠かせないものになってしまった。戦争体験があるのだ
ろうか・・・。「炭をつぐ」作者の思いがしみじみと伝わってきた。(Midori)


日短

2009-03-04 | Weblog
ふいに会ふ雑踏の妹日短     瀬戸口清子
                             「阿蘇」3月号 <雑詠>
「ふいに会ふ」ということは、雑踏の中で偶然に出会ったということだろう。
会話も短く、「じゃあね」と言って別れたのかもしれないが、久しぶりに見る
妹の姿にどこか安堵の思いもあったのではないだろうか。一方で、生活
空間をすっかり異にしている「雑踏の妹」に、一抹の寂しさも感じているの
かもしれない。何でもない「日短」のひとコマに、作者の淡い感慨が伝わっ
てきた。(Midori)

雪晴

2009-03-03 | Weblog
雪晴れの障子眩しく開きけり    松田哲成
                             「阿蘇」3月号 <雑詠>
誰もが一度は経験したことのある情景ではないだろうか。
降り続いていた雪が止んだ翌朝、まるで空っぽになってしまったような、
雲ひとつない青空が広がっている。太陽に輝く雪一色の世界は眩しいほどだ。
「障子眩しく開きけり」の「眩しく」が雪晴れの感動を深くしている。(Midori)

木枯

2009-03-02 | Weblog
木枯に電光ニュース駆けあがる    西村孝子
                                「阿蘇」3月号 <雑詠>
電光ニュースは、時々刻々と変化する最新情報を、高層ビルの側面に配信している
一行ニュースだ。文字列のいくつかの点灯パターンを繰り返せば、街を急ぐ人々の
目を惹くことができる。冬のビル風が木枯となって吹き付ける中、情報化社会の目
まぐるしさを象徴しているようにも思えるが、「電光ニュース駆けあがる」のユニーク
な発見が、臨場感ある楽しい作品となっている。(Midori)

2009-03-01 | Weblog
天守閣天下の冬を統べにけり    井芹眞一郎
                               「阿蘇」3月号 <雑詠>
日本三名城の一つに数えられる熊本城は、熊本に本拠を置いた加藤清正に
よって築かれた豪壮雄大な城だ。さて掲句、城下の冬は天守閣によってすっ
かり支配されてしまった。それは冬将軍の居城とも言えるのかもしれない。
「天下の冬」でなくては、こうも決まらなかったに違いない。
築城から400年が過ぎた今もなお、天守閣は私たちの誇りだ。(Midori)