鉄道の路線が1つしかないヴァッレ・ダオスタでは、プルマンが旅行者にとっての大切な足です。
州都であり、地理的にも州のほぼ中央にあるアオスタからは、
クールマイユール、イブレア、コーニェなど
ヴァッレ・ダオスタの主要な町や観光地へのプルマンが数多く発着しています。
チェルヴィニアへもシャティヨン乗換えで1時間ちょっとです。
バスターミナル(Autostazione)は、旧市街の南、城壁のすぐ外にあります。
FSの駅から歩いて5分もかからないくらいのところにあり、
重いスーツケースがあってもそれほど苦労せずに移動できます。
切符売り場と小さな待合室を兼ねた簡素な建物がありますが、ほかには何もありません。
晴れた日はいいのですが、雨の日はちょっと・・・。
それでも、ここからはアルプスの山々を見渡すことができます。
行きは「さあ、これから出発するぞ」というトキドキ感があり、
帰りはアルプスの山々に見送られている感じがして、思い出に残る場所です。
もっとも、乗り継ぎを含めて5回も利用したからかもしれませんが・・・。
無理を言ってスーツケースを何度も預かってもらったBilietteriaのお姉さん、ごめんなさい。
アオスタの町からは、さまざまな山を望むことができます。
北側にはGrand Combin(グラン コンバン) 。
イタリア・スイスの国境にそびえる、4000mをこえるアルプス有数の高山です。
西にはMonte Doravidi(モンテ ドラヴィディ)と
Chateau Blanc(シャトー ブラン)の山並みが見えています。
これらの山は、市庁舎前の広場からもよく見えます。
あの山々の向こう側に、ピッコロ・サン・ベルナルド峠があるんですね。
こちらは、雨に煙るBecca di Noma(ベッカ ディ ノーマ)と
Monte Emilius(モンテ エミリウス)です。
アオスタの町の南、山の向こうにはコーニュの村やグランパラディーソがあります。
このほかにも、モンテ・ビアンコ(モンブラン)、チェルヴィーノ(マッターホルン)、
モンテ・ローザなどへもアクセスのよいアオスタの町は、
山が好きな人にとっては絶好の基地なのかもしれませんね。
アオスタは、帝政ローマ時代に起源を持つ古い町で、
旧市街の周囲はローマ時代に作られた城壁で囲まれています。
その城壁のところどころには、見張りの塔を兼ねた要塞が建てられていました。
中世まで改修されながら実際に利用されていたものもあるそうです。
まずはじめは、駅のすぐそばにある「Torre Pailleron」。
レンガ積みの部分はあとから修復されたのでしょうか。
小さい塔なので、ローマ時代以降はほとんど使われていなかったようです。
2番目は「Torre di Bramafam」。
この塔は町の南、FSの駅より少し西にありますが、
ローマ時代はここがアオスタの南門として重要な役割を持っていたそうです。
(現地の案内板のイタリア語がむずかしかったので、だいたいのことしかわかりませんが・・・)
その後、有力貴族によって城砦が改修され、
12世紀の中頃には穀物貯蔵庫や裁判所(?)などとしても利用されていたそうです。
3番目は「Torre del Lebbroso」。
この塔は中世後期に建てられたそうで、帝政ローマとは何の関係もないんですが、
とりあえずこんなのもありますよ、ということで。
最後に城壁の写真を一枚。ローマ劇場近くで撮ったものです。
こんな風に二重の壁で守られていたんですね。
サンタンセルモ通りをプレトリア門とアウグストゥスの凱旋門のちょうど中間あたりで北に曲がり、
道なりに少し歩いた右手に、サントルソ教会があります。
聖トルソは木靴の職人たちの聖人だそうで、いかにもヴァッレ・ダオスタらしいですね。
教会が建てられたのは9世紀だそうですが、11世紀から12世紀にかけて、
北がアプシス、南がファサードだった教会を東がアプシス、西にファサードに変更するなど、
何回もの改装が行なわれたため、
いったいどこからどこまでが教会の建物なのか、すっかりわからなくなっています。
上の写真は、北側から洗礼堂ごしに見た鐘楼です。
高い建物のないアオスタの街では、この鐘楼は遠くからでも目立って見えます。
建てられたのは11世紀ですが、古代ローマの建物とも不思議にマッチしています。
中の様子も改装が重ねられている様子がよくわかります。
実はこのヴォールト天井のさらに上に、もう1つ天井があって、
そこに11世紀のフレスコ画が残っているそうです。
それを知ったのは、ここを訪れたあとだったので、見逃してしまいましたが・・・。
回廊へは、いったん外に出て、ぐるっとまわって後陣裏手から入ります。
ファサードの向かいにある資料館の人が案内してくれなかったからわからなかったかもしれません。
写真は回廊に向かう途中にある修道院の入り口です。
回廊は、ぱっと見は地味な感じです。アオスタ風の屋根瓦が目にとまるくらいで、
特別に心やすらぐとか美しいとかいう印象はありませんが・・・。
実は、柱頭の装飾がおもしろいんです。これはヒツジとブタ?
こっちはスカートをはいた男の人です。北のほうからやってきた人たちでしょうか?
この装飾、ほかにもいろいろあって、見ていてあきません。
よく見ると、その下の柱も形がバラバラなんですよね。
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アオスタの旧市街のほぼ中央にある市庁舎の左脇の道を北西に進む(北へ向かってから西に折れる)と、
2~3分でアオスタのカテドラーレにたどり着きます。
このカテドラーレ、特別有名なわけではありませんが、なかなかおもしろい建物です。
まず、ファサードがパッラーディアン?
オーダーを装飾的に使っているところから、かってにそう思ったのですが、
かなり新しい年代のもののように思います。
そしてファサードの中にもう1つ木製のファサードが。
で、外側の新しいファサードはいわゆる「書き割り」です。
つまり後ろにある建物よりファサードの横幅のほうがずっと大きいんです。
内側の木製のファサードの扉の上は、それぞれ彩色テラコッタの装飾がなされています。
なぜか「なんか日光東照宮みたい・・・。」と思ってしまいました。
内部はこれまた印象が一転して、すっきりした感じのゴシック?
(どうみてもゴシックですよね?)建築です。
後陣のステンドグラスのほかに目立った装飾はありません。
きっと部分的な改修が繰り返されて今のような形になったのでしょう。
そんな中で目を引いたのが、入ってすぐ右手の礼拝堂にあるこのフレスコ画です。
題材も作者もよくわかりませんが、この絵にはどこか心ひかれるものがあります。
床には一ヶ所ガラス張りになっているところがあり、
そこからこの教会の起源となった4世紀の教会の遺構を見ることができます。
ちなみに、この教会は聖母マリアと洗礼者ヨハネにささげられた教会です。
コムーネの守護聖人、聖グラートの教会はどこなんでしょうか?
Borgo Antico(ボルゴ・アンティコ)
アオスタ旧市街の東のはずれ、アウグストゥス門に近いところにあるリストランテです。
いかにも郷土料理を出してくれそうな雰囲気にひかれて入ってみました。
はじめに出てくるのはイタリアのお約束でパンとワイン。
ワインはValle d'AostaのDonnas。この州唯一のD.O.Cです。
アンティパストは「Insalatina“Borgo Antico”」、ボルゴ・アンティコ風サラダです。
ラディッキョなどの野菜の上に、クルミとフォンターナチーズ、木いちごとリンゴがのっています。
プリモは「Crespelle alla Valdostana」。
ハムを包んだクレープの上にフォンターナチーズをのせて焼いたものです。
アオスタ渓谷の町ならどこにでもある料理ですが、お店や地方によって、若干の違いがあるようです。
ここのは、ラザーニャ風でした。
セコンドは「Funghi Porcini Trijolati」。
ポルチーニ茸をガーリックソースでいためたもので、これもアオスタの郷土料理です。
ちなみにTrijolatiはカタカナ表記にすると、トリオラーティといった感じです。
ドルチェは2品。左がレモンシャーベット。右がバニラアイスと野いちごのミルフィーユです。
レモンシャーベットはその日のおすすめドルチェでした。
最後は「Coppa dell`Amicizia」。コッパ・デラミーチツィアと読みます。
舌をかみそうな発音ですよね。日本語に訳すと「友情の器」という感じでしょうか。
中身はアオスタ風コーヒーなのですが、グラッパが強烈で、もはやお酒です。
注ぎ口のようなものが4つついているのは、
この木彫りの器から仲間どうしが直接飲むためで、この器は4人まで用です。
1つの器からみんなが飲むので「友情の器」なんですね。
思っていた通りの料理と味で、大満足のお店です。
アオスタの旧市街の中心よりやや北、ドゥオーモのそのまた北側に、
一段低くなっている公園のような場所があります。
ここが古代ローマの集会場や市場があった場所、その名も「フォロ・ロマーノ」です。
小さい広場だなぁ、と思っていると大まちがいで、
実はこの下に半地下状の柱廊(criptoportico)が広がっているのです。
それもアッと驚くスケールで。上の写真の左上にある黒い扉がそのアンダーワールドへの入り口です。
このスケール、写真で伝わるでしょうか。100m走ができそうな長さで柱廊が続いています。
これが2000年以上も前のものだと考えると、ちょっと驚きです。
歩いてまわることのできるスペースはL字型になっていますが、
実際には中庭をぐるりと囲むように柱廊が一周していたようです。
作られた頃には通路は外の地面と同じ高さだったようで、中庭には神殿が建てられていたそうです。
別にこの通路で集会を開いたりしていたわけではない(と思う)ので、誤解のないように。
神殿を取り囲むスペースの南側には、市場などが置かれていたと思われるスペースがあります。
通路の外側に、壁で仕切られたスペースが残っています。どんなものが売り買いされていたのでしょうか。
それにしてもこの大量の石、いったいどこからどうやって運んできたのでしょうか。
山から切り出してきたとしても、運ぶのには大変な労力がいるはずです。
パッと見ですが、アーチの構造はローマの水道橋によく似ています。
ローマからこんな寒いところへやってきて技術を伝えた技師の人は、どんな気持ちでいたのでしょうか。
「テルマエ・ロマエ」のルシウスのことをぼんやりと思い浮かべた、アオスタのアンダーワールドでした。
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プレトリア門から城壁に沿って北に少し歩くと、上の写真のようにひときわ目立つ大壁面が現れます。
ここが古代ローマの劇場跡です。
劇場といっても、今見ることができるのは観客席と正面の壁面だけです。
劇場を取り囲むようにいくつものアーチが残っています。
おそらくここが出入り口だったのでしょう。東西・南北ともに70~80mくらいの幅でしょうか。
観客席と舞台は高さにあまり差がなく、観客はすぐ近くで見ることができたようです。
2階席や3階席もあったのかもしれませんが・・・。
残っている壁面部も近くで見るとかなりの迫力です。
わたしははじめ、てっきりこれが演劇の舞台背景だと思っていました。
こうやってみると、全体的にがっしりしたつくりだったのかもしれません。
やっぱりアオスタは「兵士の町」だったんですね。
背後には険しい山々がそびえています。
アオスタは「アルプスのローマ」と呼ばれているそうですが、
この劇場を見て、なんとなくそう呼ばれる理由がわかったような気がします。
現在の“ローマ街道”はアオスタの市街を外れるように走っていますが、
古代ローマ時代にはアオスタの市街の中心を東西に貫き、
そのままプレトリア門、アウグストゥスの凱旋門を通って、一直線に続いていました。
その名残がアウグストゥス門のすぐそばにある「Ponte Romano」です。
今は訪れる人も少ないこの橋ですが、
大昔にはローマとアオスタ以北を行き来する人でにぎわったのでしょう。
そして、きっとハンニバルもナポレオンもこの橋を渡ってローマへと向かったのでしょう。
そう思うと、橋の石畳から今にも足音が聞こえてきそうです。
めずらしいものや派手なものが好きな人には「何コレ?」という感じの場所かもしれませんが、
古代ローマ好き?の人には、おすすめの場所です。
塩野七生さんの本や「ロマエ・テルマエ」を読んだあとだと楽しいかもしれませんね。
プレトリア門からさらに東に進むと、現代のアオスタの市街地のはずれに、古い門がたっています。
この門がアウグストゥス門です。
紀元前25年(!)にたてられたこの門は、プレトリア門とは違って、
実用的なものではなく一種のモニュメント(いわゆる凱旋門)としての意味を持っています。
それにしても、2000年前にこのような山の中にこんなりっぱな門が建てられたこと、
そしてそれが今もほぼ完全に近い形で(外壁の装飾はなくなってしまったのかもしれませんが)
残されていることにビックリです。
町の側から見たアウグストゥス門です。
こうしてみると、ここがローマへと続く街道の一部だったことがよくわかります。
アオスタの町に駐留するためにやってきた古代ローマ軍の兵士たちは、
この門をどんな想いで見たのでしょうか。
古代ローマ時代から、アルプス以北への重要な拠点としてさかえていた町、アオスタ。
そのアオスタの古代ローマ時代の正面玄関に当たるのが、ここプレトリア門です。
古代ローマ時代の城壁は、ほぼ正方形に近い形でぐるりと当時のアオスタの町を取り囲んでいます。
門は二重構造になっていて、外側の門と内側の門のあいだには20mほどの幅があります。
わたしたちが訪れたときには、門は修復工事中で、同時に門のあいだの部分の発掘調査も行なわれていました。
門の中の様子です。リストランテやツーリスト・インフォメーションとして利用されています。
それにしても、2000年前の建築物ですから、古い建物を再利用するといっても、日本とはスケールが違います。
最後に一枚、修復前の様子です。門の脇に見張り台をかねた砦がたてられているのがわかります。
(この写真はアオスタ市のホームページからお借りしました)
古代ローマビジュアル大図鑑 (洋泉社MOOK) | |
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洋泉社 |
Trattoria Artisti PamPam(トラットリア アーティスィ パムパム)
アオスタのメインストリート、E・アルベルト通りから、北に抜ける小さな路地があります。
緑のアーチが印象的なこの道の途中に、道の雰囲気にぴったりの個性的なトラットリアがありました。
名前の通り「Artistica」な看板が出ています。
入り口のドアを開けて中に入ろうとすると、鍵がかかっています。
仕方なく、わたしたちはドアの横にあるメニューを読みながら別の店にしようか考えていました。
すると、常連らしき男性がやってきて、
大きな声で「なんてこった!今日は休みだなんて聞いてないぞ」と叫ぶと、
わたしたちに「今日は休みだって聞いてるかい?」と話しかけてきました。
日本から来たわたしたちにそんなことわかるわけがないのに・・・、
と思いながら話しているうちに、中からオーナーが顔をのぞかせて、ようやく開店です。
店のつくりはごくふつうですが、壁のいたるところに絵が飾られています。
メニューは予想に反して典型的な郷土料理が中心です。まずはハウスワインから。
アンティパストは「Salumi Regionali」。
ヴァッレ・ダオスタの生ハムなどの盛り合わせです。
絶品だったのはラルド。口の中でとけてなくなる感じです。
プリモもこの地域の名物「Fonduta」。
チーズフォンデュのように、
温めて溶かしたフォンティーナチーズ(この地方の特産のチーズ)をパンにからめて食べます。
セコンドは「Polenta Grassa」。
ポレンタの上にフォンティーナチーズをのせてオーブンで焼いたものです。
プリモ、セコンドとフォンティーナチーズの2連発はちょっときつかったかも。
でもこの3品、ヴァッレ・ダオスタに来たら絶対にはずしてはいけない名物ばかりです。
お店のホームページはこちら