ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

帰る場所の無い黄昏

2011年11月18日 | 通信-社会・生活

 旅は私の大好物だが、概ね国内に限っている。これまでアメリカへ3回旅行し、そのついでのカナダを含め外国は2ヵ国だけ。外国へ行かないのは言葉が通じないからという理由による。土地の人と話ができなかったら旅はつまらない。
 旅は私の大好物だが、概ね一人旅である。その日その土地で何をするかの計画は立てているが、気が変わることも多いので、一人旅の方が都合が良いのである。一人だと寝坊して予定していた電車に乗れなかったり、あるいは、乗るべき電車、乗るべきバスを間違えて計画変更を余儀無くされたりもするが、それもまた良しとしている。

 旅先で、私は大いに歩く。一日のほとんどを歩きっ放しということも珍しくない。街中を歩き、その街の雰囲気を味わうのも好きだし、大きな公園や野山を歩いて、植物や動物を見て、その土地の自然を感じるのも好きである。
 宿泊するホテルは概ね安いビジネスホテルで、それらはたいてい駅の近くにある。一日歩いて、あるいは美術館や観光名所を観て回ったりして、黄昏時にはホテルのある駅に着くようにする。駅からホテルへ向かう途中の居酒屋に入って、ビールを飲み、土地の料理を食い、日本酒を飲んで、珍しい料理を食いなどして店を出る。コンビニかスーパーへ寄って、ビール1缶と日本酒の小瓶を買い、ホテルにチェックインする。
 というのが、私の「一人旅での一日の過ごし方」の最も多いパターンだ。ただ、このパターンはホテルが駅から歩いて行ける範囲である場合に限る。

 ホテルが駅から遠いというのも何度か経験している。温泉宿にはそういったところが多い。確か石川県を旅した時だ。NHK大河ドラマの「加賀百万石がどーのこーの」の前の年だった。10年くらい前だ。金沢で一泊して翌日、加賀市の山城温泉へ向かった。温泉宿を予約してあった。駅名は忘れたが、北陸本線の駅から歩いた。もちろん、バスも走っていたのだが、途中の景色を楽しもうと思い、徒歩にした。
 駅を出たのはお昼後だったと思うが、地図で見る直線距離よりもはるかに道のりは長かった。途中からは家のほとんどない、道と野原と山ばかりの景色となる。あとどのくらい歩けばいいのか到着時間の目処がまったく立たないうちに黄昏時となった。寝場所に辿り着けるかどうか不安になる。季節は秋、10月の北陸、野宿では寒かろう。とにかく前へ進む。暗くなって、空に星が瞬く。遠くに街の灯りが見えた時はホッとした。

  先週木曜日から土曜日までデイサービス施設でアルバイトをした。利用者は介護を必要とする老人たち。寝たきりの爺さんがいた。少々アルツハイマーで、ほとんど話のできない婆さんがいた。そういった重い障害の人ばかりでは無く、民謡の上手い婆さん、見た目もお喋りもお洒落な婆さん、私に方言を教えてくれた婆さんなどがいた。
 その、私に方言を教えてくれた婆さんは、私と話をしている時はしっかりしていたが、帰る時間になるといつもおどおどした。「私はあんたと一緒に帰れるかねぇ?」と、いつも一緒に帰って同じ家で寝ている隣の婆さんに訊いていた。それは、黄昏時に帰る家の見つからない不安のようであった。「私には私の帰る家があるのだろうか?」という不安。人生の黄昏時に帰る場所がない。そんな老人はきっと多くいるに違いない。
          

 記:2011.11.18 島乃ガジ丸