ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

モビール油

2018年10月15日 | 沖縄04行事祭り・生活風習・言葉

 毒にも負けない体

 10月4日の夕方から翌5日未明にかけて沖縄島を襲った台風25号、前の週の24号に比べればさほど強くは無く、大きな被害はなかった。その25号が過ぎてから沖縄もだんだん涼しくなり、10日には布団(薄めの夏布団だが)を出した。秋となった。
 私の大好きな季節、腰痛が続いていて気分スッキリとはいかないが、一時期酷かった頻尿も概ね収まってグッスリ睡眠が増えている。涼しくなるとさらにグッスリとなる。睡眠の質が良ければ体調も良い、快食快便が続いている、あとは腰痛・・・難敵ですな。

 さて、話代わって、平和運動家で薬草研究家でもあるH爺様は82歳、1人暮らしである。猛烈台風24号が沖縄島を襲うことが確実となった日、暴風圏に入る9時間ほど前、「1人で大丈夫ですか?」と電話して訊いたら、「台風?強そうだけど私は大丈夫だよ」とのことだった。82歳とはとても思えぬ若々しい元気な声であった。
 4ヶ月ほど前の6月、私が薬草を勉強しようと思っていると伝えると、H爺様は私の住まいを訪ねてくれあれこれ資料を貸してくれた。そして、「老人会で使いたいから薬草の表を作ってくれないか」と頼まれた。頼まれた分は1ヶ月ほどでできたのだが、さらに良いものをと勉強している内に4ヶ月が過ぎ、「さらに良いものである薬草表」はまだ完成していない。H爺様はそれについて何の文句も言わない。優しいお人である。
     

 H爺様から借りた貴重な文献の1つ『沖縄薬草のききめ』は1972年の発行、その中には私の知らない単語があれこれあった。例えば疝気(せんき)、遺精(いせい)、宿血(ふるち)、歯齦炎(しぎんえん)、疔(ちょう)、腰気(こしけ)など、まだまだあるが、いくつか調べてみたらちょっと面白いので、これについては別項でいつか。
 私は何となく知っているが、若い人、また他府県の人には解らないであろう単語もあった。久々にその文字を見たので思い出したのだが「モビール油の中毒」というもの、そういうものがあることを私は父から聞いたと思う。父は戦後、軍作業員をしていた。
     

 『沖縄大百科事典』には「モビール油」は無く、「モビールてんぷら」という項目があり、「モビール油(機械の減摩油)で揚げたてんぷらのこと。食料事情の悪かった戦後の沖縄では、一時期、食用油の代わりとしてよく使われた。臭いもきつく、てんぷらを食べたあとは唇に油が黒くへばりついたり、下痢症状をおこした。」(全文)とのこと。
 「機械の減摩油」とは車のエンジンなどに使用するオイルのことで、中学校の技術家庭のエンジンやモーターについての授業で、私は潤滑油という言葉で習った。
 モビール油が機械油であり、それで天ぷらを揚げたというのを私も父から聞いている。ただ、モビール油の「油」を父は「ゆ」でも「あぶら」でもなく「オイル」と言っていたように覚えている。「モビールオイル」と言っていたような。オイルならモビールではなくモービルだったかもしれない。モービルオイルならあの有名なエンジンオイルだ。
 モービルとは米国の石油会社で、エンジンオイルも製造し、モービルオイルは有名である。私も車の運転免許は40年ほど前に取得しており、40年近くは自分の車も所持しており、エンジンオイルについても少しは知っている。エンジンオイルで天ぷらを揚げてそれを食するついては「できない相談」と言う他ない、「病気になるぜ」と思う。

 「病気になるぜ」と私が思うように、実際に「モビール油の中毒」と薬草の本にあり、「下痢症状をおこした」と『沖縄大百科事典』にもある。ただ、「モビールてんぷら」を食べた全ての人が中毒になったわけではなく、中には平気な人もいたのであろう。毒を食べても中毒しない頑丈な人もいたのであろう。そういう人に私はなりたい。
     

 記:2018.10.15 ガジ丸 →沖縄の生活目次

 参考文献
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行