とても小さな
今回紹介するマルツノゼミは、初遭遇して写真を撮ったのは2014年4月のこと。遭遇した場所は私が借りている畑ナッピバル(私による命名)で、何者かを調べてそれがマルツノゼミであると判ったのは、おそらくそう時は経っていない。何しろ大きな特徴があるので判り易かった。大きな特徴とは、セミにしてはとても小さいということ。
その約1年後、従妹Tが息子Rを連れてナッピバルへ遊びに来た。Rはその時小学校2年か3年生、男の子らしく昆虫好きで、畑に来るとたいてい虫探しをしている。ちょうどその頃、イワサキクサゼミが畑に現れていて、鳴き声が聞こえていた。
「今鳴き声が聞こえるのはイワサキクサゼミだよ」と、オジサンが得意げに言うと、
「知ってるよ、でも、もっと、ずっと小さなセミがいるよ」Rは言う。その時、既にマルツノゼミの存在を知っていて、セミの仲間ではないと確認済みであった。
「それって、マルツノゼミのことか?」
「そうだよ」
「マルツノゼミはセミの仲間じゃないんだよ」と、オジサンはさらに得意げに言う。すると、Rは面白くなさそうな顔をし、黙ってしまった。
その時私は、「そうか、よく知っているね、よく勉強しているね、偉いね」などと言ってあげれば良かったのだ。そうすれば彼は、もっと昆虫に興味を持って、もっと勉強したに違いない。子供を育てる立場であるという意味で、私は大人失格であった。
先日(2018年になって)、マルツノゼミを紹介しようと思って、その説明文を書いている時、文献やネットを調べていたら、
カメムシ目は 腹吻亜目(アブラムシ、カイガラムシ、キジラミなど)
頸吻亜目(ヨコバイ亜目:セミ、ヨコバイ、ウンカなど)
鞘吻亜目
カメムシ亜目(異翅亜目)
の亜目に分かれていて、マルツノゼミは頸吻亜目(ヨコバイ亜目)の中の、セミ型下目の中の、ツノゼミ上科の中のツノゼミ科となっている。ツノゼミ上科にはヨコバイ科も含まれているのでセミよりはヨコバイ科に近いようだ。
しかしながら、セミ科とツノゼミ科は、カメムシ目の中では同じセミ型下目に含まれているもの。仲間といっても良いのであった。そこまで理解した上で、オジサンは小学校低学年の男子に丁寧に教えるべきだった。やはり私は大人失格。
マルツノゼミ(丸角蝉):半翅目の昆虫
ツノゼミ科 南西諸島、日本全土、シベリア、他に分布 方言名:不詳
名前の由来、広辞苑に「つのぜみ」があった。角蝉と漢字表記され「カメムシ目ツノゼミ科の昆虫の総称・・・一見セミを小さくしたように見えるが、前胸部にさまざまな形をした突起を備える」とのこと。「一見セミに見え」から蝉、「前胸部に突起を備え」から角だと思われる。マル(丸)は私の想像だが、背中が丸いからだと思われる。
「ツノゼミの仲間は熱帯地方に多く分布」とあるが、本種はシベリアにも分布し、分布はその他オーストラリア、ヨーロッパ、北アメリカとなっている。分布の南西諸島を詳しく記すと、西表島、石垣島、南北大東島、沖縄諸島となっている。
体長4~5ミリと小さく、なかなか出会う機会がない。私の畑ナッピバルで過去6年間で見たのはたったの2回だけ。本種を探す目的で数時間藪の中を歩けば見つかるかもしれないが、それだけの手間暇を掛けるほど私は昆虫に愛情を持っていない。
寄主は広葉樹、個体数は多くないとのこと。成虫の出現は5~11月。
記:2018.3.12 ガジ丸 →沖縄の動物目次
参考文献
『ふる里の動物たち』(株)新報出版企画・編集、発行
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
『沖縄昆虫野外観察図鑑』東清二編著、(有)沖縄出版発行
『沖縄身近な生き物たち』知念盛俊著、沖縄時事出版発行
『名前といわれ昆虫図鑑』偕成社発行
『いちむし』アクアコーラル企画発行
『学研生物図鑑』本間三郎編、株式会社学習研究社発行
『昆虫の図鑑 採集と標本の作り方』福田春夫、他著、株式会社南方新社社発行
『琉球列島の鳴く虫たち』大城安弘著、鳴く虫会発行