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ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

瓦版018 勇者の恐れるもの

2007年04月07日 | ユクレー瓦版

 久々にモク魔王とユクレー屋で会った。他の場所では何度か会っており、話も交わしているが、ユクレー屋でとなると半年ぶりくらいになる。「月に2、3回は来てるぜ」とケダマンから聞いていたが、ガジ丸と出会うのを避けて平日に来ているのだろう。なので、ガジ丸と同じく主に週末の私ともなかなか会わなかったのだ。

 モク魔王はケダマンと並んでカウンターで飲んでいた。私はモク魔王の隣に座る。
 「何かずいぶん話が盛り上がっていたようだけど、何の話してたの?」
 「うん、モク魔王の苦労話を聞いていた。」とケダマンがニコニコして答えた。
 「苦労話?ガジ丸との争いは優勢だと聞いているけど?」
 「いや、それじゃなくて、女房のことだとさ。」と、またもケダマンが、さらにニコニコ度合いを増して答えた。他人の苦労話は楽しいらしい。
 「ハルさん?」と私はモク魔王の顔を覗き込んだ。そういえば、いつもはふてぶてしいその顔が、ちょっと疲れた表情をしている。
 「いやー、まあな、カカア天下は今に始まったことではないがな。我儘も高飛車も生まれつきのもんだがな。慣れているっていやあ慣れているんだがな。マジムンになってもう長いんだし、少しは丸くなって欲しいもんだよ。謙虚ってものを覚えて欲しいよ。」
  「何があったの?」
 「この島を出て行くんだとさ。」(ケダマン)
 「えっ、ホント?」
 「あー、出て行くんだとさ。」(モク魔王)
 「一人で?」
 「いや、私も一緒だとよ。召使役がいないと困るんだろうよ。」(モク魔王)
 「どこに行くのさ?」
 「ヨーロッパヘ行くんだとさ。パリがいいんだとさ。」(ケダマン)
 「何でまた、パリなのさ?」
 「キラキラしてるんだとさ。華麗、豪華、甘美だとさ。」(ケダマン)
 「まあな、ユクレー島は華麗とか豪華からは遠く離れているもんな。向こうは大都会、こっちはド田舎だもんな。で、どーすんの?出て行くの?」
 「出たくは無いよ。しかしまいったよなー、普通、マジムンになるくらい長く生きていれば、欲望も減るんだがな。彼女には欲を抑えるブレーキが付いていないみたいだ。元々そういうタイプの女だったんだが、欲を極めたマジムンってことかな。」(モク魔王)
 「ハルさんを説得することはできないの?」
 「説得?・・・やってはいるがな。あまり反抗すると怒るからな。欲を野放しにしているから、怒る時も尋常じゃない。手が付けられなくなる。難しいよ。」(モク魔王)
     

 マジムンの中でも強い力を持つモク魔王なんだが、勇者の恐れるものは好敵手のガジ丸では無く、傍にいる女房だったわけである。「追い出しちまえ!」とケダマンは言うが、そんなことしたら怒りが大爆発してエライことになるらしい。そのパワーは時空が乱れるほどになるとのことだ。モク魔王にとってはこの島が最も住みやすい場所とのことで、島を出るかどうかについては、もう少し説得を続けるつもりらしい。

 ちょっと気分が暗くなったので、話を変えた。
 「ところで、明日、ダピンチ博士とヘンナイ博士のお別れパーティーがあるんだけど、来ない?チャントセントビーチでバーベキューだ。私が幹事。」
 「いや、ガジ丸も出るんだろう。私は遠慮しておくよ。あっ、そうだ。ダピンチ博士といえば、彼はヨーロッパの北の方だろ。中央の方、フランスの近くにクローモホネ博士っていうのがいてな、ハルはその博士と親しいようだ。お洒落で、紳士で、カッコいいのだそうだ。ハルがパリに住みたいというのは、どうもそれも理由にあるみたいだ。」
 その後、しばらくして、モク魔王は帰った。淋しげな勇者の後姿だった。

 ハルのプロフィール

 語り:ゑんちゅ小僧 2006.11.5