いつものようにユクレー屋のカウンターで、いつものようにダラダラと飲んでいる。今日は週末、いつもならゑんちゅ小僧も一緒になるが、用事があるのか、彼はまだ来ていない。奥の席には村の人が数人、ウフオバーを相手にユンタクを楽しんでいる。
梅雨が明けて夏とはなったが、まだこの時期は風がある。晴れていると日中の太陽は厳しい暑さだが、陽が沈むと、涼しい夜風が心地良い。酔い加減も良い。
「何か、ヌルーっとなるな。」
「だね。・・・いいのかなあって思うよね。こんなのんびりしていて。」
「いいんじゃないのか。のんびりが一番だよ。」
「地球環境は悪化してるというのにね。」
「前に言ったかもしらんが、人間が忙しくするから地球環境が悪化するんだぜ。」
「うん、それ、最初は屁理屈と思ったけど、正しいかも、と最近思うようになったよ。でもさ、環境と言えばさ、思うんだけどさ、悪化は止まらないのかなあ。」
「そりゃあ、人間がその欲望のままに動く限り、地球環境の悪化は続くだろうな。」
と、ここで俺は、ある話を思い出した。
「そういえば、科学の力で環境悪化を防ごうとした星があるぜ。話聞きたい?」
「うん、ヌルーっとしたままでいいなら、聞きたい。」
「あー、俺もヌルーっとしたままで話すよ。」
ということで、ケダマン見聞録その9、題は『環境悪化を防ぐ特効薬』
その星の、今から話す時代の状況は、現在の地球のそれとほとんど同じで、海があり陸があり、空があり風が吹き、多種類の動植物が存在し、ある1種の知的生命体がいた。そして、その星の環境悪化の程度もまた、今の地球とほぼ同じくらいであった。
その星に住むある1種の知的生命体というものは、肉体も精神も地球人と何ら変わらないので、彼らのことも人と呼ぶことにする。で、その人々の文明度や科学の発達具合もまた今の地球人とほとんど変わらないものであった。というわけで、地球同様、その星の環境悪化はもう十分に危機的状況になっていたが、これもまた地球同様、住人の多くの認識は浅かった。まだ先のこととのんびりと構えていたのである。ただし、これもまた地球同様、一部の人たち、科学者や自然と直接向き合っている者達の中には、「この星の環境悪化は逼迫している」という認識を持つ者もいた。
「この星の環境悪化は逼迫している」と認識している者の中に、ヒズル博士とムゾー博士という二人の若い科学者がいた。ヒズル博士は生物学、ムゾー博士はロボット工学を専門としており、若いながらもそれぞれの分野でトップクラスにいた。二人はまた、学生の頃から付き合いがあり、親しい友人同士でもあった。
「ここ数年のうちに何か手を打たなければ、もう臨界点だよな。」と、ヒルズが先に口をきった。二人は馴染みのバーにいた。
「そうだな。政治家や経済人たち、あるいは、心ある市民の声にちょっとは期待していたんだがな。自分たちが墓穴を掘っていて、自分たちがその穴の底にいて、もうすぐ上から土がかけられるということに気付いている奴は少ないみたいだな。」
「どうする?そろそろやるか?」
「あの計画をか。うーむ、実行に移すか。」
場面はユクレー屋に戻って、
「さて、マナ。二人はどんな計画を実行したと思うか?」
「えっ!話はもう終わりなの?」
「いや、計画を立てるまでの苦労、その計画を実行する際の苦悩に二人の物語は語るべきことも多いんだがな、長くなるので話を端折った。二人がどんな計画を実行したか、っていうことがこの物語のテーマだ。・・・どう思う?」
「どう思うって、・・・環境悪化を防ぐ特効薬になるんでしょ。石油などを使わなくて済むような技術とか、少エネになるような他の技術を生み出して、つまりさ、人類の消費エネルギーそのものを減らすような計画ってことじゃない?」
「おー、ピンポン。式は違っているが答えはあっている。」
「どういうことよ?」
「人類の消費エネルギーを減らすっていう答えは合っている。その方法が違うんだ。」
「どんな方法?」
「それを訊いているんだ。分らないか?」
「うーん、ぜんぜん、見当つかない。」
「人口を半分に減らしたんだ。人口を半分に減らしたら人類の消費エネルギーも半分に減るという算段だったわけだ。まさしく環境悪化を防ぐ特効薬だぜ。」
「人口を半分にって、何十億もの人を殺したってこと?」
「おー、そんな恐ろしいことをやったんだ。そんな、ヒズル博士とムゾー博士と同じような考えをする奴が地球にもいるかもしれないぜ。」
語り:ケダマン 2007.7.6