野生の美味
イノシシ年だったのは何年前だったか、フユー(怠けるという意のウチナーグチ)しないで調べた。2007年だ。子、丑、虎、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥だから、今年は辰年ということになる。あってるか?・・・あっている。
その前年2006年の年末に動物としてのイノシシを紹介した時、「(亥年の)来年はきっと、イノシシを食ってやろうと思う。」と書いているが、それから約5年半が過ぎた今年(2012年)6月、念願のヤンバルイノシシを食う機会を得た。
5月の初め、大宜味村で無農薬有機農家をやっている知人のTさんから「国頭村の猟師がイノシシを撃ち殺して、その肉を20キロ貰った。食べにくるか?冷凍しておくからいつでもいいよ。」と連絡があり、6月2日に牡丹鍋会をやることになった。
その連絡があった約二週間後、大宜見村の元アグー養豚農家のDさんに会い、アグーについての話を聞いた。Dさんは100%アグー(市販のアグーの多くは他の種の豚との交配種)を生産していた。「100%アグーは美味しいですか?」と訊くと、
「そりゃあもう、とても美味しいです。」と答える。
「じつは再来週、イノシシを食いに行くんですが、イノシシはどうですか?」
「イノシシですか、それは羨ましい。アグーが美味しいといっても、野生のイノシシには勝てません。食べているものが違うからだと思います。」
テレビや雑誌などで紹介されているアグーはJA沖縄が商標登録した主に白豚とのハーフのアグーだ。それでも美味しいと評判のアグー、100%アグーならさらに美味しいであろう。その100%アグーの味を知りつくしているDさんが言うのだ、「アグーが美味しいといっても、野生のイノシシには勝てません」これはもう間違いない。
じつは、Dさんと会うちょっと前に無農薬農家Tさんと私は会っている。その日大宜見に行くということは前日に伝えてあって、お昼前に電話があったのだ。
「昨日、罠にかかったイノシシがいて、その肉を今から買いに行くが、2キロ単位で3000円、要るか?鍋用の肉は冷凍してあるが、今日のは生だ、旨いぞ」
せっかくの申し出だったが、いくら美味しいと言っても、100グラム150円と安めであっても、2キロはあまりにも多い。一人暮らしに消費はできない。イノシシはアグーよりずっと美味しいとDさんから聞いた後なら購入したかもしれないが、断った。
Dさんに会うちょっと前、同じ大宜味村の平飼い(鶏を狭い籠では無く地面の上で飼育すること)養鶏場へ玉子を買いに行った。そこでばったり、Tさんに会った。養鶏農家の人たちへ生イノシシ肉を届けにきたとのこと。養鶏農家の人たちは4キロの生イノシシ肉を購入したらしい。「そりゃあもう美味しいからね」とのこと。さすがヤンバルに住んでいるだけのことはある。イノシシの美味さを知っているのだ。
さて、6月2日に牡丹鍋会、「たくさんあるから何人来てもいいよ」というTさんの言葉に甘え親戚友人に声をかけた。すると、親戚から6人、友人から8人(わざわざこの日のために仕事を休んで東京からきた3人を含む)が参加した。「イノシシ肉なんて嫌だなぁ、食べたくないなぁ」と言っていた従姉も含め、皆が牡丹鍋の美味さに満足したようであった。肉に全然臭みは無いし、十分煮込んであるので固くも無かった。
鍋の出汁には秘密があった。その日の数日前にTさんから連絡があり、「聞いたら食べたくなるかもしれないので誰にも言うなよ」との前置きがあって、Tさんはその秘密を私に告げた。「ハブを捕まえた、ハブからはとても良い出汁が取れる。毒も良い出汁になるからそれも入れる。まあ、美味いから期待してくれ。」とのこと。
たしかに肉だけでなく、その汁も美味かった。「ハブの味が加わっているんだな」と思いながら私はじっくりと味わった。満足であった。ところが、
「イノシシはステーキの方がもっとずっと美味い。生肉ならそうしたんだけど今回は冷凍肉だったからな。今度生肉が手に入ったらそれを御馳走してやるよ。」とTさんは言った。それを聞いてつくづく、生肉2キロ、買えば良かったと後悔した。
リュウキュウイノシシ(琉球猪):ウシ目の野生動物
イノシシ科の哺乳類 ニホンイノシシの亜種で南西諸島の固有種 方言名:ヤマシシ
イノシシという名の由来は『動物名の由来』(中村浩著)に「イノシシの本名はイで・・・シシは獣類のことをいう・・・肉(しし)を取る意味」とある。そういえば、十二支にある猪はイと読む。イ(猪)については、「イノシシは人にであうと怒って背毛を逆立てるが、俗にこれを怒り毛という。イとはこのイ(怒)ではないか」とあった。
頭胴長80~120センチ、体重35~55キログラム、最大級個体の体重は石垣島で80キロ前後とのこと。ニホンイノシシは頭胴長110~160センチ、体重50~150キログラムなので、それに比べるとずっと小さい。寿命15~27年とのこと。子供にはニホンイノシシと同じく縦縞が入り、いわゆるウリ坊。
猟が解禁されるのは原則として11月15日から翌年2月15日までらしいが、ヤンバルの農家の人に聞くと、畑を荒らすので、いつでも捕獲しているとのこと。
記:2012.6.10 ガジ丸 →沖縄の飲食目次
参考文献
『ふる里の動物たち』(株)新報出版企画・編集、発行
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
『沖縄昆虫野外観察図鑑』東清二編著、(有)沖縄出版発行
『沖縄身近な生き物たち』知念盛俊著、沖縄時事出版発行
『日本の哺乳類』志村隆編集、株式会社学習研究社発行