酒造りの野望
私が借りている300坪の畑なっぴばるに、前に使っていた友人Kが植えたアセロラが1本あった。10月11日~12日に襲った台風19号のせいで、根ごと倒された後、枝をばっさり剪定して根っこを土に挿してあったが、どうもダメみたいである。
そのアセロラ、この夏200個ばかりの実が採れた。アセロラの生果実は傷みが早いので販売には不向きである。確か、沖縄のアセロラ産地でもその多くはジュースなどに加工されている。200個ばかりの実、よって、販売は諦める。
200個の実を販売せず、自家消費する。果物として生食しても良いのだが、痛まない内、2~3日で一人で食えるか?と考えると、困難であると判断。では、どうする?と考えて、すぐに良い考えが閃いた。「そうだ、酒にしよう」と。
果実酒とは何か?広辞苑を引くと、
1、果汁を発酵させて製造したアルコール飲料。ブドウ酒・リンゴ酒など。
2、焼酎・ブランデーなどの蒸留酒に果実を漬けて造ったリキュール。ウメ酒・イチゴ酒など。果実混和酒。
とある。私が造ろうとしているのは「1」の方。いわゆる醸造酒となる。醸造酒とは「穀類・芋類・果実などを原料として発酵させて造った酒。清酒・葡萄酒・ビール・紹興酒など。」(広辞苑)のこと。アセロラを発酵させて酒にするわけだ。できるか?
去年12月に私は日本酒を造った。造る際に参考にした本がある。『ドブロクをつくろう』だ。その中には日本酒だけでなく、雑穀酒、蒸留酒、ブドウ酒、その他の果実酒の造り方も紹介されている。ブドウ酒の頁にこうある。
「ブドウ酒は自然にできる・・・ブドウの場合は糖分が高いので、コウジ菌を使う必要がなく、果皮には天然の酵母菌がついているので、つぶして容器に入れておくだけでアルコール発酵するのである」
ブドウの「果皮には天然の酵母菌がついているので」ブドウ酒は自然にできる。アセロラの果皮にも天然の酵母菌がついているか?そもそも酵母菌とはなんぞや?広辞苑に酵母があって、「(前略)・・・アルコール発酵を営む・・・酒の醸造やパン製造に欠かせない。イースト。」のこと。イーストだ、アセロラの果皮にも天然の酵母菌がついていなければイースト菌を加えればいいのだ。でも、先ずは天然の酵母菌を期待する。
梅酒を造るような広口瓶にアセロラを入れ、「ブドウの場合は糖分が高いので」にも留意し、アセロラはさほど糖分が高いとは思えないので糖分(キビ糖)を加える。数日後には発酵を始めた。アセロラの果皮にも天然の酵母菌がついていたようだ。その数日後には発酵の泡が落ち着いたので、布越ししてペットボトルに移し替えた。約100個(半分はジュースにして飲んだ)のアセロラは200ミリペットボトルの8割方を満たした。
「生果実は発酵するぞ」と解り、アセロラより少し遅れて、畑のストロベリーグヮバの実も酒造りに使った。造り方はアセロラと同様。じつは、アセロラより半年以上も前に黒糖を私は発酵させている。発酵させているというか、実家にあった封の開けられていない黒糖が、見るとカビが生えていて、匂いを嗅ぐとアルコール臭がしたので、瓶に移して水を加えていたら、発酵していたのだ。これは今でも発酵を続けている。
宜野湾の小さな畑にシークヮーサーがあり、9月に多くの果実を収穫した。そのほとんどはジュースにしたが、30個ばかり残して、これも酒造りに使った。
台風19号で倒されたバナナ1房、放っておいたら熟してきたので食べた。全部は食えなかったので残りは皮を剥いてタッパーに入れ、冷蔵庫に仕舞った。仕舞って忘れた。気付いた時はカビが生えていた。これもまたキビ糖と水を加え、酒造りに使う。
なっぴばるにナンクルミー(自生:鳥が実を食べて糞をし、その中の種が芽生えた)しているクワ、11月、その実が熟していたので、収穫し、これも酒造りに使う。
以上の結果、アルコールになった果実はアセロラ、グヮバ、シークヮーサー、バナナの4種。いずれもアルコール度数はそう高くないみたいで、「酒だぜ!」と満面笑みとまではいかなかった。味は、グヮバは香りが良く美味しい、アセロラはまあまあ、シークヮーサーは酸味が強過ぎて酒という感じがあいない。バナナも予想外に酸味が強い、もしかしたら、発酵が進み過ぎてアルコールの先の酢になってしまったのかもしれない。
クワの実は広口瓶の中で潰して、キビ糖を加え常温に置いた。仕込んでから10日ほど経っているが未だ発酵していない。これは失敗かもしれない。
記:2014.11.19 ガジ丸 →沖縄の飲食目次
参考文献
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
『ドブロクをつくろう』前田俊彦編、社団法人農山漁村文化協会発行