「もう怒ったぞ!」のことをウチナーグチ(沖縄口)では「なーワジタン!」と言う。「もう」が「なー」で、「怒ったぞ」が「ワジタン」となる。「怒る」が「ワジル」で、その完了形が「ワジッタ」、それを強調して「ワジタン」となる。(たぶん)
5年近く前の2004年の初めに、「会社のホームページを作りましょう。良い宣伝になります。民間の仕事が増えるでしょう。」と、実際にネットで見ることのできるサンプルを作って、社長に提言した。濃い墨構造改革のせいで、公共工事が減り、建設関連の企業は厳しくなると予想された頃だ。「公共工事が減り、建設関連は厳しくなる。」は予想通りとなったのだが、それから半年経っても、社長からはウンともスンとも返事が無かった。で、「なーワジタン!」となり、私は自分のHPを作ることにした。
同じ頃、パソコンを購入したパソコン初心者の友人Hに、週に一度、彼の店に行ってパソコンを教えていた。ところが、本人に覚えようという情熱がほとんど無く、半年経っても初心者のままだったので、「なーワジタン!」となり、教えるのを止めた。
「なーワジタン!」は、かような時にピッタリの言葉である。
「怒る」は、じつは、普通には「クサミチュン」と言う。これは沖縄語辞典にも載っている由緒正しい「怒る」である。「ワジル」は、じつは「沸騰する」という意味で、「沸騰する」を人の感情に喩えて「怒る」となる。これは日本語で考えても容易に想像がつくと思う。最近では、由緒正しい「クサミチュン」はあまり聞かない。私も使ったことが無いので、どの程度の怒りを言うのか正確には知らないが、「怒りで感情が沸騰する」というニュアンスのある「ワジル」の方が、より怒っていると思われる。(たぶん)
ウチナーグチが廃れてしまった現在でも、「ワジル」、「ワジタン」はよく耳にする言葉である。私もよく使っている。元々は強い怒りを表したかもしれないが、今ではちょっとした怒りでも「ワジル」、「ワジタン」を用いる。
「とても」を表す言葉は、イッペー(いっぱい)、シニカ(死ぬほど)、シタリカ(したたか)などあり、「シタリカワジッタ」などと使う。それらもよく使う言葉であるが、「ワジル」を重ねて怒りを強調した「ワジワジーする」の方を、最も頻繁に耳にする。とても怒っているが少し余裕がある、というニュアンスがある。(たぶん)
向かいの家に中型犬が飼われている。大人しい私の好みの犬だ。彼はロープに繋がれていて、それをいっぱいに伸ばしても、門の20センチ手前までしか届かない。
隣の家には小型犬が飼われている。その家の主人が外に出ていると、彼も外に出ることがある。よく吼える犬である。煩いので私は嫌いである。そして、彼はロープに繋がれていない。自由に動き回ることができる。
ある日、向かいの犬が激しく吼えていた。しかも、怒っている吼え方だ。見ると、隣の小型犬が、向かいの犬の目の前にいて、その門に小便をかけていた。中型犬がこれ以上前に出てこれないことを知っていて、おちょくっているようだ。
私は向かいの犬の激しい怒りが理解できた。自分の家の門に縄張りの印をつけられたのだ。すごくバカにした行為である。しかも、相手はすぐ目の前にいるが、それを止めることができない。相手は吼えるしかできない自分を見て、嘲笑っている。このような怒りの際は「ハーギシギシー」という言葉を用いる。ハーギシーは歯軋りのこと。歯軋りがギシギシするほどの怒り。これもまた、よく耳にする言葉である。アメリカや日本政府の強権力による理不尽な行為に、ウチナーンチュは「ハーギシギシー」してきた。
記:ガジ丸 2008.11.8 →沖縄の生活目次
参考文献
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行