ヤシ科の植物に方言名のついているものは少ない。自生種が少ないからである。沖縄に自生するヤシ科の植物は、八重山のヤエヤマヤシの他、南西諸島全般に分布するクロツグやビロウなど数種しかない。それらの中で、ビロウはもっとも身近な存在である。ウチナーグチのクバという名前で親しまれている。ビロウという名前は知らずとも、ビロウそのものは知らずとも、クバという名を知っているウチナーンチュは多いはず。
クバの葉で作られたクバガサ(笠、三角錐の帽子)、クバオーギ(扇)は、子供の頃使っていたし、今でも販売されている。ハルサー(農夫)にはこのクバガサが良く似合う。
ビロウの木は公園樹としてもよく利用され、あちこちで見ることができる。沖縄では神聖な樹木ともされ、各地のウタキ(御嶽)やハイショ(拝所)に多く植栽されている。
ビロウとワシントンヤシは、その葉の形状がよく似ている。ビロウの小葉は中途から折れているが、ワシントンヤシの若い葉は折れていない。また、ワシントンヤシは枯れた葉が長く残り幹から垂れ下がっているのも特徴。さらに、「ビロウは葉を付け根から落とし幹肌はなだらかであるが、ワシントンヤシは葉の付け根部分が幹に残って、幹肌が網目模様になっている」などといった違いがあるが、
ある年のある日、末吉公園を散歩していたら、幹肌がほとんどビロウと変わらないワシントンヤシがあった。それも、たくさんあった。「ずいぶんと背の高いビロウだな」と初めは思ったのだが、それには名札があって、ワシントンヤシと書かれてあった。その隣にはビロウがあって、見比べると、背の高さが違い、葉の横への張り出しが違った。ビロウは低いくせに葉の張り出しが大きく、ワシントンヤシは真分数、今流行の小顔。すらりとしたスーパーモデルのようであった。
→ビロウとワシントンヤシ
ビロウ(蒲葵)公園・街路
ヤシ科の常緑高木 原産分布は九州南部以南、南西諸島、他 方言名:クバ
基本種のシナビロウは中国南部に、ワビロウは九州南部・南西諸島に、オガサワラビロウは小笠原に自生するとある。沖縄で見るビロウの多くはワビロウということであろう。文献にシナビロウ、オガサワラビロウとの違いが書かれていないので、確かなことは言えないが、写真のものもたぶんワビロウなのであろう。
ビロウというと、下品な私はすぐに尾籠(きたなく、けがらわしくて、人前で失礼に当ること。広辞苑より)の字が思い浮かんでしまうが、漢字は蒲葵と書く。蒲色の葵とはいかなることか、という字の意味を含めて、ビロウの名前の由来については不明。
ビロウを広辞苑でひくと、檳榔という漢字も出てくる。これはビンロウとも読み、檳榔樹のことを指す。ビンロウジュは同じヤシ科だが、本種とは属が違う。
ビロウは神木とされ、沖縄の神聖な場所である拝所などに多く見られる。また、その葉は、笠や団扇などに利用される。方言名であるクバの名と共に、クバガサ(笠)、クバオウギ(扇)などは、ウチナーンチュによく知れ渡っている。繊維から縄も作られる。
高さは10~15mほどに達する。陽光地でよく生育する。また、乾燥に強く耐潮風性があるので海浜地の植栽にも適する。開花期は3月から4月。
花
実
葉
幹
訂正加筆:2018.9.4
記:島乃ガジ丸 2006.1.7 →沖縄の草木目次
参考文献
『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行