刺身以外でも美味い
子供の頃、食卓に出る刺身と言えばほぼ決まっていた。マグロ、カジキ、タコ、イカの4種、たまに白身の魚、それが何だったか、父も母も死んだ今確かめようも無いが、おそらく沖縄近海で獲れるマチの類、ミーバイの類、チヌ、タマンとかであろう。頭の上にタライを乗せたオバサンが「イユ(魚)コーミセーランガヤー(買ってくれませんか)」と街中を行商していた。タライの中には糸満(漁師町)から仕入れてきたであろう魚が入っていた。母がそれを呼び止めて買った。それがたぶんそういった魚であった。
アカマチ、シチューマチ、クルキンマチ、アカジンミーバイ、チヌ、タマンなどの名前はいずれもウチナーグチ(沖縄口)である。蝶や蛾をひっくるめてハーベールー、トンボは大きいのがダーマーで、小さいものはアーケージェーなどのように細かくいちいち名前をつけることを面倒臭がるウチナーンチュだが、魚にはいちいち名前をつけている。それは、蝶やトンボは食えないが、魚は大事な食糧だからだと思われる。
その魚の一種であるマグロやカジキはしかし、私が子供の頃からマグロはマグロで、カジキはカジキだった。父も母もそう呼んでいたし、私もそれしか記憶に無い。
今回、マグロとカジキを調べながら、「そういやー、マグロとカジキの方言名って聞いたこと無いなぁ、しかし、魚だし沖縄で獲れるし、方言名が無いってことはなかろう」と思って調べた。・・・あった。それも「いちいち」あった。
マグロとカジキにはそれぞれ総称があり、マグロはシビ、カジキはアチヌイユと言う。和語でもマグロは「サバ科マグロ属の硬骨魚の総称」(広辞苑)で、カジキは「マカジキ科とメカジキ科の硬骨魚の総称」とあり、マグロにもカジキにも数種が含まれる。沖縄でもマグロ、カジキは数種が水揚げされていて、そして、そのいちいちに名がある。
クロマグロ→ウシシビ、キハダ→チンバニー、ビンナガ→ハニシビなど、
マカジキ→チール、クロカジキ→ンジャーアチ、シロカジキ→シルアチ、バショウカジキ→バレン、フウライカジキ→クルミーアチ、メカジキ→アンラーアチなど。
頻繁に口にするものは名前が付いていないと都合が悪いのだ。で、いちいち名前をつける。ウチナーンチュにとってマグロもカジキも身近な食材であったのだ。
そんな身近な食材、子供の頃の記憶ではほとんど刺身でしか食っていない。カジキの天ぷらは、母が作ってくれたかもしれないが、煮たり焼いたりは記憶に無い。
自分で料理をするようになってからは、マグロもカジキも刺身だけでなく、天ぷらにもするし、煮たり焼いたりしても食っている。火を通す料理は、カジキの場合はどの種でも使うが、マグロなら値段の安いビンナガマグロ、他のマグロは高いので火を通すのは勿体ない気がして、刺身で美味しく頂いている。・・・クロマグロの刺身、そういえば長いこと食ってねぇなぁ。・・・ビンナガでも酢味噌漬けにすると生でも美味しい。
カジキは、少なくともメカジキはほぼ火を通して食っている。ソテーの時は火を通し過ぎないことがコツ、通し過ぎると固くなる。和風にしても洋風にしても美味しい。
マグロ(鮪):サバ科の硬骨魚
サバ科マグロ属の総称 暖水性の外洋回遊魚 方言名:シビ
名前の由来は広辞苑にあり、「眼黒の意」とのこと。確かに目が黒い。
沖縄のスーパーで手に入るマグロの内、クロマグロは高価、メバチマグロも高く、キハダマグロも高め、最も安価なのはビンナガマグロ。これを私は多く買う。ビンナガという名前の由来は、これも広辞苑にヒントがあり「胸びれは長く延び」からだと思われる。
クロマグロ(ホンマグロとも言う)、メバチマグロは体長2mを越し、キハダマグロは2m近くになるが、ビンナガ(ビンチョウ、トンボとも言う)は1mを越す程度。
缶詰のシーチキンの材料となるマグロはビンナガマグロとのこと。
カジキ(梶木・旗魚):マカジキ科及びメカジキ科の硬骨魚
マカジキ科とメカジキ科の総称 熱帯・温帯の外洋に分布 方言名:アチヌイユ
名前の由来は資料が無く不明。方言名の由来についてはアチが不明、ヌは「の」、イユは「魚」で、「アチの魚」となるが、アチが「秋」なのか「熱」なのか?
「上顎は剣状に延びている」(広辞苑)のが特徴。マカジキ科とメカジキ科の2科に分かれ、マカジキ科にはマカジキ、クロカジキ、シロカジキ、バショウカジキ、フウライカジキ、コカジキなどがあり、メカジキ科はメカジキの1種のみ。メカジキは女梶木という意味では無く眼梶木、広辞苑に「眼が大きいのでこの名がある」とあった。
メカジキは体長3m、体重300キロ、シロカジキはそれより大きく、体長4m、体重570キロになるとのこと。カジキ全般、春季に脂肪が多く美味とのこと。
記:2012.4.16 ガジ丸 →沖縄の飲食目次
参考文献
『ふる里の動物たち』(株)新報出版企画・編集、発行
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
『沖縄昆虫野外観察図鑑』東清二編著、(有)沖縄出版発行
『沖縄身近な生き物たち』知念盛俊著、沖縄時事出版発行