ケダマンがいなくなって、話し相手がいなくなって、ちょっと寂しい気分だが、まあ、ケダマンがやってくる前の状態に戻っただけのこと。私はいつものように村を散歩して、瓦版のネタ探しをしている日々だ。ただ、週末はちょっと暇になった。
そんなところへ、「新しい発明が完成した。」とシバイサー博士から連絡があった。早速、研究所へ向かった。博士は在宅、私が来るのを待っていたようだ。
「今回はどういった発明ですか?」
「巷では新型インフルエンザなるものが流行っているというのは知っているな?」
「はい、世界中に広まっているようですね。」
「春になると花粉症が猛威を振るうってことも知っているな。」
「はい、倭国の話ですね。オキナワには無いようですが。」
「新型インフルエンザも新型と名の付くくらいだから、今までに無かったもの。花粉症も昔はあまり聞かなかった。地球環境が変化すると、今までに無かった病気が発生するということだ。それは、これからも増えていくだろう。」
「そうですね、それは予想できます。」
「で、私が予見するところ、新型インフルエンザは、新・新型インフルエンザとなり、新・新新インフルエンザとなって、これからも新しいのが出てくるであろう。それはその都度ワクチンを開発して、人類は対処していくことになる。」
「そうですね。大変ですね人類も。で、博士はそれを助けるつもりで、万能ワクチンでも発明したというわけですか?」
「そんなもんは発明しない。どんなウィルスが発生するか分からないのに、それを予想して、それに効果のあるワクチンを予め作るのはとても面倒だ。」
「あー、それじゃあ、花粉症の特効薬ってことですか?」
「それもそのうち人類自ら作るだろう。私がわざわざやることでは無い。」
「ん?それじゃあいったい、何なんですか?」
「花粉症もだな、世間ではスギ花粉がどうのヒノキ花粉がどうのと言われているが、実は、もっとやっかいなアレルギー物質があるのだ。」
「やっ、それは知らなかったですね。倭国のことですか?」
「いや、まだ症状となって現れているところは無い。まだ無いが、将来現れる可能性がある。これは、人知れず静かに蔓延するから厄介なのだ。」
「何なんですか?それ。」
「シダ植物の胞子だ。これがそのうち突然変異を起こし、空気中にあるさまざまな科学物質と反応して毒性を持つようになる。そうなると厄介なことになる。で、それを見越して、シダの胞子を寄せ付けないものを発明したというわけだ。」
「はー、それは大発明じゃないですか。」
「うん、名付けて『ほうしぼうしぼうし』だ。カッ、カッ、カッ。」と博士は高笑いする。胞子防止帽子という語呂合わせのネーミングがきっと自慢なのであろう。
胞子防止帽子はしかし、帽子というよりは小型扇風機だ。ドラエモンのタケコプターに似ている。帽子としては見た目に格好悪い。需要は少ないのではないかと思って、
「博士、それを頭に付けるより、マスク型にして、鼻と口の周りだけに風を送って、胞子が近付かないようにした方がいいんじゃないですか?」と率直な意見を言う。
「あー、それはそうだが、マスクの駄洒落が思い付かんかった。」とのこと。実用性よりは駄洒落を優先するのが博士の発明だ。それはいつものこと。
「ところで、博士、シダの胞子が毒性を持つようになるのはいつ頃ですか?」
「それは全くの不明だ。10年後になるか、100年後になるか、あるいはもっとずっと後になるか、もしくは、そういう日は来ないかもしれない。」とのこと。
あるかないか判らない病気のための機械なんて、と私は思った。博士の発明は今回もまた、とりあえずしばらくは、役に立たないもののようであった。
記:ゑんちゅ小僧 2009.6.5