午後、シバイサー博士の研究所を訪ねた。旧盆の日にも行っているので2週間ぶり。前回熟睡中であった博士は、今回もまた熟睡中であった。ために、話を聞くことができず、ゴリコとガジポがいれば、その遊び相手をしてやろうと思ったが、彼らもまた、お昼寝中であった。よって、何の収穫も無いまま帰ることになった。
ユクレー屋に向かう。海岸沿いを散歩しながら、のんびり行ったのだが、夕方にはまだ間がある時刻に着いてしまった。まだ厳しさの残る陽射しの中、歩いている間も時折聞こえていたが、ユクレー屋の庭でも聞こえた。夏の終わりを告げるジーワが鳴いていた。
「もう8月も終わりだね、ジーワが鳴いてるね。」(私)
「ジーワって、今鳴いているセミのこと?」(マナ)
「あー、そうだ。和名ではクロイワツクツクという。」(ケダ)
「夏の終わりを告げるセミだよ。」(私)
「うん、そういえば、夏休みの終わりが来たって感じがする。」(マナ)
などという会話から始まって、いつものようにビールとなる。それからしばらくして、もうすぐ夕陽が沈もうかという頃に、珍しくシバイサー博士がやってきた。
「やー、博士、週末のこんな時間に珍しいな。」(ケダ)
「何か新しい発明はありませんか?って訊きに来る奴が最近姿を見せないんでな、しょうがなく、自ら姿を現したというわけだ。」
「って、私のことですか?私なら今日も行ったんですよ。寝てる博士を起こさなかっただけです。それにしても、わざわざ来たってことは何か発明したんですね?」(私)
「その通り。これだ。」と、博士は手に持っていた物体をカウンターの上に置いた。それは見た目、ミサイルのような形で、50センチほどのものだった。
「何ですか、これ?」(私)
「ユーナが喜びそうなものを作った。彼女が帰ってしまったのは残念だが、まあ、誰が見ても面白いと感じるものだ。簡単に言うと爆弾だ。」
「爆弾?って、ドカーンの爆弾?危なくないの?」(マナ)
「そう、ドカーンの爆弾。しかも、あの悪名高きクラスター爆弾を真似たものだ。ではあるが、ちっとも危なくない。むしろ、愉快な爆弾だ。」
「危なくは無いんだ。なら、いいね。で、さ、その悪名高きクラスター爆弾っていったい何なの?原爆みたいな怖いものなの?」(マナ)
「大きな爆弾から小さな子爆弾が大量に飛び散って、無差別殺傷できる爆弾さ。非人道的と言われている。なわけで、確か、今年の5月に禁止条約が締結されたよ。」(私)
「そんなものが実際に使われていたの?」(マナ)
「あちこちの戦場でたくさん使われたみたいだよ。その子爆弾には不発弾も多くてね、第二の地雷とも呼ばれてるんだ。それによる悲劇も多いみたいだ。平和国家である日本の自衛隊も大量のクラスター爆弾を所有しているそうだよ。」(私)
「ひえー、恐いね。そんな恐ろしい爆弾を真似たって、どういうことさ。」と、マナは博士に問い詰めるように言う。が、博士はニタニタ笑いながら、それを無視して、
「マナ、とりあえずのビールをくれ。」と言って、カウンター椅子に腰掛けた。
博士はビールをゴクゴクと喉に流し込んで、プハーっと息を吐いて、久しぶりの発明品の話を、もちろん、いつものように大いに得意げな顔になって、始めた。
見た目が爆弾で、中から爆発的に大量のあるものが出てくるからクラスター爆弾に似ているというわけだが、もちろん、爆発することは無い。空から降ってきて、地面に突き刺さったら扉が開いて、中から小さな玉がたくさん飛び出てくる。小さな玉はそれぞれがパカっと割れて、その中から、おもちゃの兵隊ならぬ、おもちゃの音楽家が出てくる。
おもちゃの音楽家はそれぞれが楽器を持っており、それを演奏する。出てきた順に、最初は一人で、すぐに三人、十人と人数が増えていって、最後には50人編成くらいのオーケストラとなって、見事な演奏を聴かせてくれる。これを名づけて、「クラスター楽団」という。どうじゃ、カッ、カッ、カッ、愉快だろう。
ということであった。確かに愉快だ。こういうのが実際の戦場で使われて、命のやり取りをしている兵士の前で演奏会をする。モーツアルトの交響曲なんかを演奏する。そしたらきっと、平和な気分になるに違いない。「戦争やーめた。」になるかもしれない。
「博士、いいですね。これは最高ですよ。早速、役に立てましょう。」
「フッ、フッ、フッ、そうか、君もそう思うか。ヘッ、ヘッ、ヘッ。」
これを使えば世界平和も夢じゃない、博士にしては珍しく役に立つ発明だ。と私は思ったのだが、後日談。ガジ丸に頼んで、ある戦場で試してみたらしい。昔の兵隊ならその音楽に耳を貸したかもしれないが、今の兵隊にはそんな余裕は無いみたいで、おもちゃの音楽隊が出てきて演奏を始めたとたん、ことごとく機関銃の的となったらしい。
記:ゑんちゅ小僧 2008.8.29