折々の記

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一念発起~9人の指揮者のベートーヴェン『第9』演奏聴き比べ

2010-12-23 | 音楽
師走と言えば、『第9』。
第9と言えば、フルトヴェングラーの「バイロイト」盤が余りにも有名で、すでに伝説になった感すらする。

この「バイロイト」盤は、小生の第9のバイブルのような位置を占めていて、これまで他の第9を余り聴かなかったが、弟から『兄貴は「食わず嫌い」だよ、他にも名演がいっぱいあるよ』といわれて、他の第9もぼちぼち聴くようになった。

そして、今回は一念発起、1日2人(最終日3人)、4日間かけてフルトヴェングラー以外の9人の指揮者が演奏した『第9』の第1楽章を聴き比べて見た。(第1楽章にしたのは、最もこの楽章が好きだから。)

その指揮者は、
ジョージ・セル、ブルーノ・ワルター、ヘルベルト・フォン・カラヤン、レナード・バーンスタイン、朝比奈 隆、アンドレ・クリュイタンス、ラファエル・クーベリック、フェレンツ・フリッチャイ、カルロ・マリア・ジュリーニの9人である。

以下は、独断と偏見による聴き比べの感想である。


 
指揮:ジョージ・セル、演奏:クリーブランド管弦楽団・合唱団、独唱:アデーレ・アディソン(ソプラノ)、ジェーン・ホグソン(メゾ・ソプラノ)、リチャード・ルイス(テノール)、ドナルド・ベル(バリトン)1961・4、(左)、
指揮:ブルーノ・ワルター、演奏:コロンビア交響楽団、独唱:エミリア・クンダリ(ソプラノ)、ネル・ランキン(メゾ・ソプラノ)、アルバート・ダ・コスタ(テノール)、ウイリアム・ウィルダーマン(バリトン)合唱:ウエストミンスター合唱団、1959・1(右)


1日目  セル VS ワルター

セルの第9を聴くのは、今回が初めて。
一聴して、今まで聴いた第9の第1楽章と異なる印象。

人によっては、この演奏を「溌剌とした、小気味よいテンポ」と評するだろうが、小生には、武骨でぶっきら棒に聞こえて、とてもそうは思えない。余り好きになれない演奏である。

ワルターは学生時代から好きだった指揮者だが、こと第9に関しては、当時から余り聴かなかった。(もっぱら、フルトヴェングラーだった。)
セルと対照的に余りに流麗過ぎて、激しさ、荒々しさが表に出てこない所が、物足りないと当時感じた印象は、今、改めて聴いても変わらない。

 
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン、演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、独唱:アンナ・トモワ=シントウ(ソプラノ)、ルジャ・バルダーニ(アルト)、ペーター・シュライアー(テノール)、ジョゼ・ヴァン・ダム(バリトン)合唱:ウィーン楽友協会合唱団、1979・10・21、東京普門館ライブ(左)、
指揮:レナード・バーンスタイン、演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、独唱:ギネス・ジョーンズ(ソプラノ)、ハンナ・シュヴァルツ(アルト)、ルネ・コロ(テノール)、クルト・モル(バス)、合唱:ウィーン国立歌劇場合唱団、1979・9ライブ(右)


2日目  カラヤン VS バーンスタイン

2枚とも、ほぼ同時期の共にライブ盤という共通項があり、演奏時間もカラヤン盤が15:18、バーンスタイン盤が15:22とほぼ同じ。テンポの速さでは、9人の指揮者の中で断トツの1位、2位であるのも共通している。

しかし、同じ速いと言っても、カラヤンの演奏はテンポ以上にせかせかしているように聴こえたのに対し、バーンスタインの演奏は全く逆で、実に堂々としていて、決して速さを感じさせない演奏であった。
カラヤン盤については、演奏の良し悪しと言うよりも、好みの問題で、カラヤンのようなスタイルは好みに合わないと言うことに他ならない。

 
指揮:朝比奈隆、演奏:NHK交響楽団、独唱:片岡啓子(ソプラノ)、伊原直子(メゾ・ソプラノ)、小林一男(テノール)、勝部 太(バリトン)、合唱:東京芸術大学、1986・4・25NHKホールライブ、(左)
指揮:アンドレ・クリュイタンス、演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、独唱:グレ・ブロウェンスティーン(ソプラノ)、ケルステン・マイヤー(メゾソプラノ)、ニコライ・ゲッダ(テノール)、フレデリック・ガスリー(バリトン)、合唱:ベルリン聖ヘドヴィヒ大聖堂合唱団、1957(右)


3日目  朝比奈 隆 VS クリュイタンス

演奏速度が速いと言う点では、カラヤン盤とバーンスタイン盤が1位、2位であったが、その逆の演奏速度が遅いという点では、朝比奈隆盤が1位、2位がクリュイタンス盤で、それぞれ18:21、18:13と、カラヤン盤、バーンスタイン盤より約3分も遅いテンポである。

バーンスタイン盤が、速さを感じさせない演奏とすれば、さしずめ、こちらの2枚は逆に遅さを感じさせない演奏と言う点で共通している。

クリュイタンス盤は、悠揚迫らざる、実に堂々とした演奏で、録音の素晴らしさと相俟って、部屋いっぱいにベートーヴェンの世界が広がる感覚である。一方、朝比奈盤は録音が悪く、総じて音がやせ気味でイマイチ熱気と迫力が伝わってこないのが、いかにも残念である。

 
指揮:ラファエル・クーベリック、演奏:バイエルン放送交響楽団・合唱団、独唱:ヘレン・ドーナス(ソプラノ)、ブリギッテ・ファスベンダー(アルト)、ホルスト・ラヴェンタール(テノール)、ハンス・ゾーティン(バス)1982・5・14ライブ、(左)
指揮:フェレンツ・フリッチャイ、演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、独唱:イルムガルト・ゼーフリート(ソプラノ)、モーリン・フォレスター(アルト)、エルンスト・ヘフリガー(テノール)、ディートリヒ・フイッシャー=ディースカウ(バリトン)、合唱:聖ヘドヴィヒ大聖堂聖歌隊、1958・1・4(右)


4日目  クーベリック VS フリッチャイ VS ジュリーニ

三者とも気宇壮大な演奏。
スケールの大きさ、迫力、低弦の分厚い響き、咆哮する金管楽器群、そして、テインパニーの強打、緊張感に満ち溢れた骨太の演奏と言うことでクーベリック盤、フリッチャイ盤、ジュリーニ盤は軌を一にしている。

また、三者とも音質が極めて良いと言う点でも共通している。

以上の通り、この三者の演奏は、第9の第1楽章の演奏としては、甲、乙つけがたい名演である。

この三者の第9の演奏を聴けただけでも、今回の聴き比べは大変有意義であったと確信した次第である。


指揮:カルロ・マリア・ジュリーニ、演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、独唱:ユリア・ヴァラディ(ソプラノ)、ヤルト・ヴァン・ネス(メゾ・ソプラノ)、キース・ルイス(テノール)、サイモン・エステス(バス)、合唱:エルンスト・ゼンフ合唱団、1989・12、1990・2


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