高所恐怖症のH子ちゃんには、少々酷な『トーミの頭』の最先端の岩。
『トーミの頭』の最先端の岩の上でVサインをして写真に収まりながら、3人のうちの一人Hちゃん曰く。
『H子ちゃんがいたら、高所恐怖症の彼女のことだから、きっと、この場所で腰を引いて、這いつくばっちゃうかもよ』
『そうだ、そうだ』と打てば響くような反応がみんなから返って来る。
また、黒斑山の頂上から浅間山の雄大な眺めをバックに記念写真を撮った時も、『彼女にこの景色を見せたかったな』と言う声が期せずして上がる。
幼なじみの山歩きのメンバーで『紅一点』のH子ちゃんが、体調を崩して今回の山歩きに参加していない。
黒斑山に向かう車中の話題は、
『我々にはわからないストレスがあって、それが引き金になったのかもね』
『辛抱強い彼女のこと、きっと我慢し過ぎたんだよ』
『健康に自信があったのが、かえって仇になったかもね』
等々、もっぱらH子ちゃんの健康についての話しであった。
彼女が体調を崩したという知らせがあったのは、ほぼ1か月前のこと。
しかも、当分の間、山歩きなどの運動は自粛して下さいとドクター・ストップがかかったとのこと。
寝耳に水の知らせだった。
この歳になっても健康診断の結果が『オールA』という、元気印の元祖のようなH子ちゃん、険しい上り下りもものともせずに歩き通してしまう男勝りの健脚ぶりを発揮していた、あのH子ちゃんが、選りによってドクター・ストップで戦線離脱になるなんて、と絶句であった。
同時に、これは『少し休みなさい』という彼女へのシグナルでもあると思えて、焦らずにゆっくりと休養して、英気を養い、再び戦列復帰することを切に祈った次第である。
『秋になって、すずしくなったら、みんなで彼女を食事に誘うことにしようや』と帰りの車の中で、話し合った。
我が幼なじみたちは、みんな心根のやさしい男たちである。