今週から、朋子の母が、泰吉宅へ来ている。週単位で、自宅に一人住まいしている朋子の母を、朋子は訪問して、介護してきたが、道中にかかる時間や経費、労力がかなり負担となってきた。しかも、充分にケアされていないと思うのか、朋子に対する態度にも変化があり、不満をもらすこともでてきた。そこで、婚家先で、気兼ねもあり、言い出しかねていたのだが、泰吉の父親が亡くなったのをしおに、引き取ることとし、毎日では朋子自身も辛いというので、週毎に暮らすこととなったのである。いろいろ変化が生ずる。猫たちが、まず、徐々に近寄り、いつのまにか側へはべるようになり、猫と暮らしたことがない朋子の母であったが、すっかり、なじむようになった。また、娘時代から、映画や本が好きで、いまも池波正太郎の本を楽しみにしている。あまり、面白い、楽しみだというので、どれほど面白いのだろうかと、泰吉も池波正太郎の本に始めてふれた。「日曜日の万年筆」というエッセー集だったが、いっぺんにファンとなってしまった。作家の姿勢、価値観が泰吉の好みにあう。なぜ、今まで、ふれなかったのか、不思議なぐらいである。生い立ちや、道理の立て方、進み方どれも自然で、正直で、泰吉は、すばらしい出会いを実感した。これは、大きな変化である。人生の宝物を得たかもしれない。泰吉はそう思った。