泰吉は、関東時代、独身寮を夜中に抜け出し、といっても門限があるわけでもなく、自由に出入りできるので、気の向いたときに、近くの、ちょっとした盛り場へ、一人でも繰り出した。焼肉やホルモンが大好きで、焼酎にホッピーというビールもどきにするものをいれて、思うさま飲食した。体重はみるみる増えて、先輩から、成人病候補と会うたび指摘されたりした。そのご本人も、今から思えば、立派な成人病であったようにも思えた。その予言が、ぴったり当たったのは、それから30年後のことである。体質の中性脂肪が高いとか、コレステロールが高い、血液が濃い、とかはこの頃に、その基礎ができたのではないかと、泰吉は思っている。深夜にオールナイトの映画を見に行ったこともあった。これも、一人である。真剣に見ていたわけではないが、知らず知らずに、いわゆるステレオタイプ的な見方から、脱け出すことができつつあった時期でもあった。複雑なドラマ仕立てや、登場人物の心理構造、人間世界の一筋縄ではいかない事実を知ったのだった。作品の力が、泰吉の認識の形成に役立っていた。