(原題:Jodaeiye Nader az Simin)
----今年のオスカーって、
『アーティスト』と『ヒューゴの不思議な発明』 との一騎打ちと言われていたけど、
結局、『アーティスト』が作品賞など主要部門を制したね。
「そうだね。
一方、最初から確実視されていたのが
アカデミー外国語映画賞。
『彼女が消えた浜辺』で一躍脚光を浴びた監督の作品。
いやあ、これは見ごたえあったね。
監督・脚本のアスガ-・ファルディは
脚本家として、そのキャリアをスタートさせているだけあって、
ほんと、物語の運び方が巧い」
----どういうところが?
「まず、物語が次々と意外な方向へと転がっていくこと。
そしてそれを動かすのが、
登場人物の不可解とも思える行動ということ。
つまり、そこには<謎>と<秘密>が隠されているわけで、
映画は当然にミステリー的な要素を帯びていく。
さらに、そのミステリーには、
登場人物たちそれぞれが語る<真実>と<嘘>があり、
観る方は、登場人物と共に、
それを見極めていかなくてはならなくなる」
----でも、それってミステリーだったら
どれでも同じじゃニャいの?
「確かにそうも言えるんだけど、
彼の映画の場合、
その<秘密>や<謎>は、
それぞれが抱えてやむなし…ということが多い。
悪意からは行なわれていないんだね」
----それって、どういうこと?
「たとえば、
それは周りへの気遣い、思いやりからついた嘘だったり、
宗教への帰依からの行動だったりする。
この映画は、
互いに起訴しあった事件における
二組の夫婦とその周囲の物語。
話を分かりやすくするために、
そろそろストーリーを語ろう。
テヘランで暮らす妻シミンは、
11歳になる娘の将来のことを考えて、
夫ナデルと共にイランを出る準備をしていた。
ところがナデルの父親がアルツハイマーのため、
彼はその提案を受け入れることができない。
やむなく家庭裁判所に離婚申請をするシミン。
一方のナデルは父の世話のためラジエーという女性を雇うことに。
ところが、ある日、ナデルが帰宅すると、
父は意識不明でベッドから落ち、
ラジエーの姿はどこにもなかった…」
----酷い女性だニャあ。
「まあまあ。
ところが、このラジエーは、しばらくして
当たり前のように戻ってくる。
収まらないのはナデル。
彼女が金を盗んだと決めつけ、
家から追い出してしまう。
ところがその夜、ラジエーが入院したとの知らせが入る。
しかも、彼女は流産していたという。
あわてて病院に駆けつけるナデルとシミン。
ラジエーの夫はナデルが暴力を働いたと訴えるが…」
----ニャるほど。
そこで訴訟合戦になるワケだ。
「そう。
ポイントはナデルがラジエーが言うように、
本当に突き飛ばしたのか、
そしてラジエーの妊娠を知っていて
そこまでやったのか?
ここにナデルの娘の両親への思いも絡み、
さまざまなドラマが生まれていく」
----結局のところ、真相は?
どっちが悪いの?
「ほらほら。
そうじゃないって。
この映画の見どころは、そんなところじゃない。
よく、映画を観た後、
『あのヒロインの生き方は私には受け入れられない…』とか、
あるいは
『だから、そうなったんだ。自業自得さ』みたいな声を聞くときあるけど、
この映画は、
そんな自分の生き方や倫理観に併せて観るものではない。
それって、つまるところ、
自分の価値観を絶対軸としていて、
でも、それはせいぜい日本国内、
あるいはそれに近い西洋的環境、教育から生まれた観方でしかないわけだからね。
だけど、このイランのようなイスラム文化圏に生まれた人にとってはどうだろう?
自分が子どもの頃から信じてきた宗教、
それに対する信仰心が深ければ深いほど、
ぼくらから観たら、一見、奇妙な行動となってくる」
----う~ん。例を出してよ?
「たとえば、このシーン。
ラジエーは失禁してしまった老人を前に大きな戸惑いを見せる。
イスラムにおいては、排せつ物に触れることは
血液や豚肉などと同じく不浄とされる。
ましてや男女が隔離されている世界。
親族ではない男性の肉体や排泄物に触れ、介護するなんてありえない」
----ええ~っ。
じゃあ、ラジエーはどうするの?
「答は言わないでおこう。
そのこと、ひとつとっても
この映画の登場人物のだれが正しく
だれが正しくないなんて、
簡単に言えないことが分かるよ。
しかし、すべてが明らかになったときの衝撃たるや…
ほんと、これはオスカー受賞当然の映画だね」
(byえいwithフォーン)
フォーンの一言「でも真相が知りたいのニャ」
米ジャンプカットが多く、ポンポン進む度
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※画像はアメリカ・オフィシャル・ギャラリーより。