風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

ボリショイ・バレエ団 『白鳥の湖』 @東京文化会館(6月12日)

2017年06月12日 22時59分44秒 | バレエ



The show must go on.
というわけで吃驚ハプニングのあった今夜の公演。
以下、今夜のワタクシの感想を時系列のままに書くことにいたします。


【第一幕】

チュージン素晴らしい

まずはこれに尽きます。いやあアッパレ。

彼は他の版ではなく、まさに「グリゴローヴィチ版の王子」そのものなのだなあ。
ノーブルで美しい踊りはもちろん王子そのものなんだけど、そこに王子の「若さゆえの神経の繊細さ、純粋さ、危うさ」があって、そんな彼の姿がこの物語をすごく明確に表現していて驚きました。

数年前にザハロワ&ロヂキン君で観たときにどうしても理解しきれなかった、そして非常に理解の難しい版のように感じられたこの作品が、チュージンの王子をただ見ているだけでストンと自然に、そしてすごくシンプルに理解できた。グリゴロ版ってこうしてちゃんと物語を見せてもらえれば、決してわかりにくい版などではなかったんですね。
二場のロットバルトが王子を湖へと導きながらシンクロするように踊るところ、もう踊りを見ているだけで涙が出そうになりました。まっすぐに真実の愛を求めている若い王子の透明な純粋さに。これは「王子の物語」なのだということが、「やがて一国の王となる王子が少年から青年へと移行していく物語」なのだということが、ここの場面からだけでもすごくよくわかった。
そしてそんな王子の背後で踊るロットバルトは、「人が大人になる過程で必ず向き合わねばならない自分の中の何ものか。そして向き合った後はそれ以前の自分には二度と戻れない何ものか」であるように私には見えました。それは「運命」、「現実」、「王子のダークサイド」、どう呼んでも構わないと思います。
体が大人になり周囲の環境も変わっていくなかで、王子自身、望もうと望むまいと、もうそれと対峙すべき時期に来ているのだと思う。
そしてロットバルトがそういう存在であるならば、王子がロットバルトに勝つことができないラストは必然ということになるのだよね(ラストを悲劇に変えたグリゴロさんの決断は正しかった)。

そしてそんな彼とスミルノワのパートナーシップが素晴らしかった。
アダージョのPDDは、この二人の踊りが発する純粋さに息をとめて見入ってしまいました。
「若いゆえの、若いときにしかない危うさ、純粋さ、透明感」が伝わってきたよ。
チュージンって今何歳なんだろう?30代よね?なのにあの感覚をあんなにリアルに表現できるなんてすごい!
それにスミルノワを支えて踊るチュージンが、少年から青年へと移行しつつある微かな色気を感じさせてカッコイイのよ。
こうして王子は恋を知り、一つ大人への階段を上ったわけだけど、、、ロットバルトはその続きも用意しているのよね・・・。

スミルノワは絶望の中にいながらも王子に出会えたことをやっぱり嬉しく感じていて、 最初は恐る恐る、でも次第に王子に自分を預けていく心の動きが伝わってきました。自分には何も変える力はないのだという諦めと、それでも微かな希望を信じたい気持ちも見えて。そっと王子に甘えるような一瞬の仕草と表情が見ていてとても切なく、悲しく、胸が苦しくなりました。なぜならオデットがロットバルトから逃れて王子のものになる未来は「絶対にあり得ない」のだから。この版の王子にはあのラスト以外の道は最初から存在していないのだと思う。人は大人になることが必然で、いつまでも子供のままでいることはできないのだから。スミルノワのオデットは、自分がやがて消えていく存在であることを感じている。でもこの時の王子はそんな彼女の内面の悲しみには気づいていなくて・・・。
スミルノワってほとんど顔の表情を変えないのだけれど、だからこそ時々ふっと見せる人間らしい表情がひどく魅力的で、なによりチュージンとのパートナーシップが本当に素晴らしいから、踊りから物語が見えてくる。
純粋なのにとても濃密なアダージョでした。
なんて美しい世界だろう。
それはファンタジーの世界の美しさではなく、私達のだれもが一度は経験する、人生のほんの一時期にだけ存在する美しさ――。ああ、こんな世界を見せてもらえるなんて・・・!
別の版だけど、私の中でエベレストの頂上、雲の上に君臨しているあのロパ様のアダージョと同じくらい感動したかもしれません(オデット単体ならやっぱりロパ様が最高峰ですが)。
そして大人になった王子がいつの日か再び「本当に愛」に出会うことがあったとしても、それはこのオデットとの愛とは別の形のものなのだと思う。こういう愛は、きっと人生で一度だけのものだから。

オケは、笑っちゃうほど盛り上げてくれました。いやあ、ほんと楽しいね~ボリショイのオケ。「踊れ!踊れ!盛り上がれ!」ってダンサー達を下から駆り立てている。
このオケの良さって爆音はもちろん楽しいのだけれど、盛り上げ方が上手ですよね。大事な部分になると1~2小節くらいのフレーズ(ドレミファ~くらいの)をぶわぁっと膨らませるように演奏してクライマックスへ持っていく。あれ、聴いていてとても楽しくて、興奮しました。決してすごく上手なわけでも繊細なわけでもないのに自信いっぱいの演奏も、バレエ演奏としてとてもいいと思う。大満足です。


道化は開演前にキャスト変更があり、ゲオルギー・グーセフ。彼も素晴らしかった!キレキレのスピードある踊りで盛り上げてくれました。道化役って実はすごく重要ですよね。それにグーセフは振付は可愛く踊っているのだけど一幕の王子がまだ持っていない世慣れ感があって、それが王子と対比されてとてもよかったです。


(25分間の休憩)

しかし25分たっても幕は上がらず・・・
「お客様にご案内申し上げます。第二幕の準備に時間を要しておりますため、そのまま客席にてしばらくお待ちください」のアナウンス。
・・・嫌~な予感・・・。一幕すんごく良かったんだから、このまま誰も変わらないでよ~。頼むよ~

さほど待たずに、「お待たせいたしました。準備が整いましたのでこれより第二幕を上演いたします」。
おお、何もなく続けてくれるのね~。良かったあ~。


【第二幕】
何事もないかのように幕が上がり、王子のお嫁さん選びの舞踏会。各国の王女の踊りが終わって(この間グリゴロ版王子は舞台にいません)、ようやく上手奥から王子登場。
髪がサラリとなびいて。

・・・・・って、、、

ウラド~~~~~!?????

ちょっ・・・・さすがにワタクシ動揺。
だってアナウンスもなかったのに。でもこの顔はどう見てもウラド。

しかし次の瞬間。

ウラドかっこい~~~

私、ラントラートフって決して好みのタイプではないのですよ。踊りは好きですけど。
でも、でも、、、

カッコイイ!
チュージンとは別の意味での王子様オーラがいっぱい。繊細で神経質な感じもするチュージン王子に対し(それがいい)、こちらは宮廷で大らかに育った華やかな王子様。
ただこのウラドを見て、一幕と二幕の配役が逆じゃなくてよかった、と思いました。逆だったら(一幕がウラドで二幕がチュージンだったら)おそらく今夜これほど感動できなかったのではないかと思う。なぜならグリゴロ版の物語に合っているのは私の印象ではウラドよりチュージンの方で(二人の全幕を観ていないので言い切ることはできませんが)、一幕でチュージンが「これはこういう物語なんですよ」とグリゴロ版白鳥の物語を十分に語って見せてくれていたから、もう物語の説明は不要だった。たとえタイプの違う王子でも、十分に物語を追うことができた。
普通ならとても感動なんてできなかったはずの精神状態で感動できたのは、チュージンのおかげが大きいです。

が、ウラドもすごく頑張ってくれた(ちょっと演技がクサいところもあったけど笑) さすがに最初は慌ただし感があったけど、よくぞあの勢いのまま客席のテンションを下げずに立派に幕を繋げた!なんて頼れる男なの!さすがはプリンシパル!感動したよ~~~。


そしてもう一人立派だったのが、スミルノワ!王子が変わったのでオディールは一体誰が出てくるんだろうと密かにドキドキしていたのだけれど、スミルノワのままで嬉しかった。そして内心はわからないけど、あの落ち着き。私が落ち着いていなきゃいけないんだっていう度胸を感じたよ。ウラドのサポートと合わなかった時もウラドはさすがに余裕のなさが表情に出ちゃってたけど(当然だよね。急な代役だったし、サポート失敗してスミルノワにケガをさせたら大変ですもの)、スミルノワは最後まで表面上は落ち着いた表情を崩さなかったので、こちらも落ち着いて観ることができました。またそういう事を抜きにしても、スミルノワのオディール、すごく魅力的だった。踊りも力強くて華やか。女性に免疫のない王子が誘惑されちゃうのもわかるわ~。ブラヴォー、スミルノワ!

ロットバルトのツヴィルコ。迫力!一幕は顔芸やりすぎじゃね?と思ってしまったけど、二幕は大きな踊りで魅せてくれました。チュージンやウラドの王子様な踊りと対照的な、いい意味で粗さのある凶暴で不穏な感じがロットバルトらしくて大変よかった。

そしてオケ。
二幕も笑っちゃうほどの盛り上げ方で、力技で「ジークフリートなんにも変わってないから!最初からラントラートフだから!」と全力で言われているようで、ニヤニヤしちゃいました。
VIVA、ボリショイのチームワーク

あ~楽しかった!そして楽しかっただけじゃなく、作品にすごく感動しました。初めて心からグリゴロ版の素晴らしさがわかったよ。正直なところを言えば最後までチュージン&スミルノワで観たかったけれど(それくらい一幕が素晴らしかったから)、ボリショイのチームワークの厚さ&熱さを目の当たりにして、普通の公演で味わえない種類の感動をもらえました。
やっぱりボリショイ最高!!!!ありがとう!!!

今夜は脇もみんな良かったです。白鳥コールドもぞくっとするような美しさがあったし、各国の王女達もみんな美人で踊りも見ていて楽しかった。あと王子の友人役の一人のクレトワが、顔立ちは少々地味だけど踊りがハキッとしていて気持ちよかったな。

今夜は、本当に大きな満足をもらえました。
そうそう、カテコのときのウラドが大変良かった。
あくまで「自分は代役ですから」というように控えめで、会場の大きな拍手にスミルノワに「よかったね」ってニコニコの笑顔を向けてて。うんうんって何度も頷いて大拍手の客席を見上げて嬉しそうな様子も、自分ではなくスミルノワやボリショイのために心から良かったなと思っている感じで、スミルノワの優しいお兄さんみたいだった。ウラドってあんな表情もするんですね。前回のボリショイ来日でも世界バレエフェスティバルでも彼を観たけど、あんな表情は初めて見た気がする。マーシャと一緒だと自然と年下くんの表情になっていたのか、あるいは代役を無事終えた安堵感のせいか。思わず恋しちゃいそうでした笑。

チュージンにももう一度拍手を送りたかったけれど、やっぱりカテコには出てきませんでしたね、わかってましたけど・・・。終演後にロビーに掲示されていた案内によると、体調不良だそうです(踊りはそんな風には全く感じさせない素晴らしさでした)。どうか一日も早く回復しますように。一幕後のカテコでしっかり彼に拍手ができて、よかったです。また次回もぜひ来日してね。そのときこそスミルノワとのペアで白鳥の全幕が観たいです。あ、その前にルグリ・ガラで会える、、、かな?
追記:チュージンは背中の故障だそうです。あんなに綺麗に踊っていたのに・・・。どうかどうかお大事に・・・。



ウラドもお疲れさま!王子衣裳、似合う^^
踊るたびに髪がサラサラ靡いていたのは、ワックスで整える暇もなかったのだね。でもそれもステキだったよ~。
しかもノーメイクだったそうで。確かにノーメイクぽいですね↑。双眼鏡でガン見していたけど全然気付かなかった。素が王子すぎて笑。

パリの炎は行けないので、私のボリショイ祭りは今夜でお終いです。
ボリショイの皆さん、美しくて楽しい夢を本当にありがとう。大好きよ!!!

・・・・・の予定だったのですががが。
『パリの炎』(ワシリーエフ&クレトワ組)も行ってしまいました。感想はのちほど。



オルガ・スミルノワのインタビュー
セミョーン・チュージンのインタビュー
セミョーン・チュージンのインタビュー(2011年)
ウラディスラフ・ラントラートフのインタビュー

スミルノワ&チュージン インタビュー! 〜『ルグリ・ガラ』出演と、ボリショイ・バレエを語る〜
Semyon Chudin:“I feel like Lensky” (2016年)
Olga Smirnova and Semyon Chudin on “Swan Lake”  Landgraf on Dance(2017年)


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