風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

梨木香歩 『西の魔女が死んだ』

2006-12-28 01:26:53 | 

「自分が楽に生きられる場所を求めたからといって、後ろめたく思う必要はありませんよ。サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きるほうを選んだからといって、だれがシロクマを責めますか」

(梨木香歩『西の魔女が死んだ』)


学校で苛められ登校拒否をしている中学生のまい。これは、父親が持ってきた転校の話を「転校しても根本的な問題は解決しないし、敵前逃亡みたいでうしろめたい」と迷う彼女に、おばあちゃんが言った言葉。そしてまいは、「新しい学校がまいにとっての『北極』であるかどうかはわからないけれど、試してみる価値はある」と、転校を決意する。

個人的にはもう少し「毒」のあるお話が好みではありますが、児童文学としてはいいですね、こういうお話。子供の頃に読むととてもいいと思う。
自分の家にいるのにホームシックになったり、昼寝をして夕方目覚めたときに世界中でたった一人取り残されたような心細さを感じたり、人は死んだらどうなるのかを考えて怖くて夜眠れなくなったり。どれも覚えのあるもので、懐かしいような微笑ましいような切ないような気持ちになりながら読みました。

周りと違うからといって、無理して自分以外の人間になろうとする必要なんかどこにもない。自分が自分であるということはとても価値あることなんだから。
子供達に何よりも必要なのは、こんな風に言い切ってくれる大人なのだと思う。でもそもそも、こういう考え方のできる大人自体、意外なほど少ないんですよね。他人と異なることを怖れる大人、他人と異なる自分に自信を持てない大人、そんな大人がどうして子供達の個性を伸ばすことができるだろう。大人が魅力的であることこそが、子供にとって何よりの教育になると思うのだけれど。

北極は、自分が楽に呼吸できる場所、自然体でいられる生き方。
素直に求めればいい。その手をちょっと伸ばすだけ。
少なくとも、試してみる価値はある。

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