風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

別府アルゲリッチ音楽祭 水戸室内管弦楽団 @東京オペラシティ(5月16日)

2023-05-17 23:38:15 | クラシック音楽




昨年に続いて今年も行ってきました、アルゲリッチ音楽祭の東京公演
私にとっては4回目のアルゲリッチ、初の水戸室内管です。

【プロコフィエフ:交響曲 第1番 ニ長調 op.25〈古典的〉】
最初の3曲はオケのみの演奏でしたが、開始早々からオケの音にビックリ
素晴らしいですね~~~
SNS情報によるとサイトウ・キネンのメンバーが中心のオケだそうですが、それぞれの音に個性と自発性があって、なのに音楽が無理なく自然に流れていて、聴いていて気持ちがいい。そして下手な奏者が一人もいなくて、ストレスゼロ。水戸市民になりたくなってしまいました
この曲を聴くのは、ムーティ&シカゴ響に続いて2回目。
ムーティ&CSOは重さが気になってしまったのだけれど、今回の方が音が弾んでいて、でも悪い意味での軽さはなく、より好みでした。

【ストラヴィンスキー:〈プルチネッラ〉組曲】
この曲は初めて聴いたのだけど、バレエ・リュスからの委嘱作品とのこと。
まずは事前にyoutubeで全曲版のバレエを見てみました。
なんとなく私のイメージするバレエ・リュス作品ぽくはないなと思いつつ動画を見ていたら、終盤でプルチネルラが増殖(違)して街がプルチネルラだらけになるシュールな絵面に、これか!と。いや違うかもしれないけど、あのシュールさは私のイメージのバレエ・リュスぽい。
それはさておきこの曲、いい曲だなぁ。。。。。
こういう呑気で幸せな気分になれる曲、大好き。
今日の演奏でも、最後は泣きそうになってしまったよ。
私はどう考えてもネガティブ属性の人間だと思うのだけど、こういう呑気で幸福な作品が何故か好きなんです。
ところでこの曲はストラヴィンスキーが作曲したというよりは、ペルゴレージ他による原曲を彼が編曲したもの。

ストラヴィンスキーはこれらの原曲を素材としながらも、リズムや和声は近代的なものを取り入れた独自のスタイルに作り替え、ディアギレフの意向は無視して、ハープ・打楽器はおろか、クラリネットさえ含まない合奏協奏曲風の小編成の作品とした。…ディアギレフは完成した作品が要望通りでなかったために驚愕したがこれを了承し、大編成管弦楽を前提にしていたマシーンの振り付けは音楽に合わせたコンパクトなものに作りかえられた。
(wikipedia)

ディアギレフは愛人マシーンに振付を作り変えさせ、ストラヴィンスキーの意向を尊重したのか。当たり前だけどただのエロオヤジじゃないというか、やはりバレエ・リュスを作った人だなぁと。
実際に聴いて強く感じましたが、この作品は絶対に大編成よりも小編成の方が魅力的ですよね。大編成ではもっと重く壮大な感じになってしまっただろうと想像するけれど、小編成だと現代的な軽みとお洒落感が出て、とても素敵。あの絵面のシュールさにも合ってると思う。

(20分間の休憩)

【コダーイ:ガランタ舞曲】
前半も十分に満足だったけれど、このガランタ舞曲の演奏、素晴らしかった!
前述したとおりこのオケは技術的に上手いだけでなく、各奏者の個性がちゃんと音に出ているのがいい。昨年のパリ管を思い出しました。こういう感じのオケは日本ではなかなか出会えない。
中でもこの曲のクラリネットの音がそれはそれは素晴らしくて。技術的に上手いとか美しいとかいうだけではなく、音の表現力と雄弁さが衝撃的。もはやクラリネットの音じゃなく人間の声みたい。私、中学時代にクラリネットをやっていたくらいこの楽器の音が好きなので、こういう音に出会えると嬉しくてたまらなくなってしまうんです。
帰宅して調べたところ、マテ・ベカヴァック(Mate BEKAVAC)さんという方でした。クラリネット界隈では割と有名な方のようで、こんな記事も。いやぁ、ほんとに良い音だった。。。
またこの曲は、今日の指揮者のディエゴ・マテウスに最も合っていたように感じました。
熱いだけでなく、暗さや静けさも感じる曲。

【ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調】
満を持して、アルゲリッチ様のご登場。
今年初めに心臓の不調のために休養していたと聞いていたので心配していましたが、お元気そうでよかった。
アルゲリッチを見るといつもフレイレのことを思い出すのだけど、フレイレが亡くなってもう1年半か。早いな…。
さて、今日の演奏も、来月で82歳になられるとは信じがたい素晴らしさでした。
最初の3曲の素晴らしさを、最後にアルゲリッチは全部持って行ってしまった。
やはり若手のオケや奏者を相手にしているときよりも、こういう成熟したオケや奏者を相手にしているときの方が、アルゲリッチらしい音を聴ける気がする。
一楽章を弾き終わったとき、指揮者に向かってニコッと笑み
いつものように、彼女自身が音楽そのものであるかのようにさり気なく弾かれているその音の、一音一音に惹きつけられずにいられない。強烈な抗い難い魅力。それは良くも悪くもオケを含めた全てをアルゲリッチ色にしてしまうのだけれど(決して彼女自身の自己主張が強いわけではないにもかかわらず)、アルゲリッチはそれでいいのだと心底感じてしまう。この演奏が聴けるなら、それがラヴェルらしいか否かもどうでもよくなってしまう。もはや音楽を聴いているというよりも、物凄い何かを体感しているという感覚。ひたすら息を止めて、一音一音を大切に聴きました。
そして、アルゲリッチの音はどうしてこんなに温かいのだろう。。。。。。2楽章は泣きそうになってしまった。
本当に、唯一無二のピアニストだな、と改めて心底感じました。

【ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調より第3楽章(アンコール)】
本編を終えて舞台袖に引っ込むときに、ティンパニを指でタタタン♪と楽しそうにはじくアルゲリッチ
私の席からは舞台袖の様子が見えていたのですが、もしかしたら今日はアンコールを演奏するつもりはなかったのではないかな。それくらい長くアルゲリッチとマテウスが話し合っているように見えました。まぁ週末の水戸でも3楽章をアンコールで演奏したそうなので、予定どおりだったのかもですが。
あまり乗り気じゃなさそうに舞台に戻ってきたアルゲリッチ。しかし、弾き始めた途端にいつもの如く鬼神に変身。
アンコールでの彼女の演奏は、本編とは違い、より奔放な勢いのあるものでした。
本編の丁寧な演奏も私はとてもいいと思ったけれど、アンコールの肩の力が抜けたような自由な演奏(ヤケクソ気味にも聴こえたけど笑)もとてもよかったです。ピアノの音はアンコールの方がしっかり鳴っていたように感じました。
弾く前は乗り気じゃなさそうだったのに、演奏中は体を揺らしながら楽しそうにオケに向ける笑みが相変わらずキュート

オケが全員引っ込んだ後も拍手は収まらず、再びアルゲリッチが登場。そしてマテウスとオケの皆さんも登場。
会場は大きな大きな拍手喝采に包まれました。
温かな、いい時間だった
どうかどうかお体をお大事に。またあなたのピアノを聴ける日を心からお待ちしています。

※そういえば、第二楽章のアルゲリッチの弱音の演奏中に客席で携帯音が鳴ったことに対してSNSで集中砲火が浴びせられていますが、もちろん私もそれは許しがたいことに変わりはないのだけど、個人的にはあそこでハッと現実に戻されたにも関わらず、アルゲリッチの次の音が聴こえた瞬間にアルゲリッチの世界に一瞬で引き戻されたことが、稀有な体験でした。普通ならもうしばらく現実世界を引きずってしまうのだけれど、本当に一瞬でラヴェルの音楽の世界に戻ることができたんです。アルゲリッチの音の凄さを改めて実感しました。



★★★★★


このパールマンのドキュメンタリー、観てみたいな。

Itzhak Perlman & Martha Argerich record Brahms: Scherzo, F-A-E Sonata
上記ドキュメンタリーで使用されているアルゲリッチとパールマンのF.A.E.ソナタの映像のロングバージョン。
こういう弾き方のこの曲もとてもいいね。

Violin Sonata in C Minor "F-A-E": III. Scherzo, WoO 2

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