風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団 @ミューザ川崎(7月2日)

2022-07-04 22:05:37 | クラシック音楽



フランソワ=グザヴィエ・ロトケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団の日本ツアー初日の川崎公演に行ってきました。
先月から続いた怒涛の観劇・鑑賞祭りもこれで一段落、の予定。
2日前に聴いたカントロフのピアノリサイタルが衝撃的な素晴らしさだったので、間隔をあけずにオーケストラの演奏を聴いて感動できるかな?と少し心配していたのだけど。
いざ行ってみたら、最初から最後までとんでもなく楽しかった
私、マスクの下でずっとニヤニヤしっぱなしでした。

【ベートーヴェン:「レオノーレ」序曲 第3番 Op.72b】
【サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲 第3番 ロ短調 Op.61】

【J.S.バッハ:無伴奏パルティータ第3番BWV1006よりII「ルール」 *ソリストアンコール】
(20分間の休憩)
【シューマン:交響曲第3番 変ホ長調「ライン」 Op.97】
【ベルリオーズ:歌劇「ベアトリスとベネディクト」より序曲 *アンコール】

のっけから、ああ、海外オケの音だと嬉しくてたまらなくなる。
日本のオケではなかなか聴けない、この自然な解放感&突き抜け感!
ウィーンフィル以外の海外オケを聴くのは2020年1月のサロネン&フィルハーモニア以来で、渇いた土に水がしみ込んでいくような感覚に、自分がどれほどこういう音に飢えていたのかを実感したのでした。

そして、Theドイツの音
1827年に創設された長い歴史と伝統を持つこの楽団が単独で来日するのは今回が初めてとのことですが、このオケの音を聴いて、ヨーロッパの地方都市ってこういう感じだよねえ、と懐かしく感じました。
東京やニューヨークとは明らかに違う、暗さも伴った、温かな素朴さ。
楽団と一緒にそんなケルンの町の空気も運んできてくれたような、オケの音色。
それは特に『ライン』で強く感じることができて、2楽章の素朴な生活味、4楽章の重厚な荘厳さ、5楽章のカーニバルの狂騒、そういった全く異なるものが極めて自然に共存しているところに、オーケストラや街の「歴史」というものを感じました。
街角の肉屋やパン屋のような庶民の生活と、大聖堂の持つ長い長い歴史の重み。その両方が、当たり前に一つの街の空気の中に存在している感じ。ヨーロッパの街角では普通に出会えるこの感覚。
それを、この楽団の演奏から感じることができたのでした。
でも音楽が過去のものではなく私達と同時代のものとしてあるような、”音楽が生きている”楽しさは、おそらくロトの指揮による部分もとても大きいのだろうなと。
私は古楽やピリオド奏法には全く詳しくないけれど、フライブルク・バロック・オーケストラやシフのカペラ・アンドレア・バルカを聴いたときと同じ種類の楽しさを今回の演奏からは感じました。ベートーヴェンやシューマンの時代の演奏会に同時代の人間として私達が参加しているような、そこに全く違和感がない感覚。

 今回のツアーの演目に選ばれたのがベートーヴェンとシューマン。まさにライン地方で活躍した作曲家であり、彼らの名刺代わりともいえる。

 「シューマンは、すでに交響曲全曲を録音するほど力を入れている作曲家。我々にとって交響曲第3番《ライン》が特別なのは、第4楽章がケルン大聖堂のオマージュとして描かれているからです。また、私はケルンから近いボンのベートーヴェン・ハウスを何度も訪れ、彼の自筆譜や手紙を研究しました。これらの作品を日本で上演するため、ナチュラルトランペットや小型ティンパニといったピリオド楽器を持って行くつもりです」
(ロト。Japan Arts

なるほど。カペラ~来日時の元館長さんのトークによると、シフもベートーヴェン・ハウスに足繫く通って名誉会員にまでなってるそうなので、やはり音楽作りでこの人達に共通しているものがあるのかな

以下、覚書です。

・レオノーレのトランペットのバンダは、4階R側客席より(P席だったので、奏者の姿がよく見えた)。やっぱりバンダって楽しい ロトさん、トランペットが鳴り響いているとき、まさに囚人達がその音を聴いているかのように微笑みながらゆったりと首を巡らせていました。

・サンサーンスの協奏曲。樫本大進さんのヴァイオリンを聴くのは初めてで(「情熱大陸」に出演されたときに断片を聴いたことがある程度)、最初のうちはその良さがわかるようなわからないような?だったのだけれど、どんどん音が艶と伸びやかさを帯びてきて、特に二、三楽章は圧巻でした
オケの美しさと相まって、呼吸を忘れて聴き入ってしまった。
大進さん、さすがコンマスだなあ。音楽を導いてる。オケとは違う種類の音だけど、良い化学反応が起きていたと思う。
エキサイティングかつ美しい協奏曲、堪能させていただきました。ブラヴォー!
ソリストアンコールのバッハも、かなり好みなバッハの演奏でした(サンサーンスより好みだったくらい笑)。過剰に歌わず、でも冷たくなく親しみもあり、かつ品もあって。

・シューマンの『ライン』は、上述したように、まるでシューマンの時代のドイツの街角に自分がいるような錯覚を覚えました。クラシック音楽の演奏会では滅多に味わえない感覚。まだしばらく海外旅行には行けないと思われる中で、時空を超えた旅行気分を味わわせてもらえました

・オーケストラアンコールのベルリオーズのラスト、ロトは笑顔全開でニッコニコ

・久しぶりにミューザでオーケストラを聴いたけれど、改めて良いホールだなあと。といってもケルンのようなオケとこのホールの相性はどんなもんだろう?と聴く前は少し心配していたのだけど(どちらかというとロンドン響のような現代的な音色のオケと相性がいいように思うので)、最高に合ってた
客席と舞台が近い親密さがケルン管の洗練されすぎていない素朴な音色と合っていたし、なにより強奏でも音が混濁しないこのホールの音切れの良さがロトが作るメリハリのある音楽と相性ピッタリ。オーケストレーションに問題があると言われるシューマンでも、ちゃんと各楽器の音が埋もれることなく聴こえました。

・オケの弦は、暗めでザラついたTheドイツの音色。といってもバイエルン放送響などはこういう音ではないよね(あちらは、もっと洗練された美音)。今まで聴いたドイツのオケの中で敢えて言うなら、ゲヴァントハウスの音に近いように感じました。素朴で表情豊かな音色。トランペットやトロンボーンやホルンなどの金管も、どんなに強奏でも煩くならない。こんなオケを持つケルンの人々は幸せだ。
また、大編成のオーケストラではなく室内楽を聴いているような親密さは、ロトとの信頼関係の顕れでもあるのだろうなと。
なおtwitter情報で知りましたが、ホルントップは読響の松坂さんという方が臨時で吹かれていたとのこと(もともとアジア系の楽団員も混ざっているオケなので外見だけでは区別がつかない)。その他にも出国前にPCR検査にひっかかり来日できなかった楽団員が数名いたそうです。

・ベートーヴェンで使用された小さなティンパニ、目の前で聴けて楽しかった。ピリオド楽器なんですね。トランペットも。素朴な音色がいいなあ。

・今回のプログラム、オケのお国ものであるドイツものを2曲、指揮者のお国ものであるフランスものを2曲と、バランスの良いプログラムだったな、と今思う。

ああ、本当に楽しい演奏会だった…!
ロト、いい指揮者だなあ。すっかり好きになってしまいました。
twitter情報によると、次回は レ・シエクルと2年後に来日予定とのこと。行けたらいいな


Mo.ロト&ギュルツェニヒ管弦楽団、樫本大進とともに!



都響の演奏会のために来日中のクラウス・マケラと食事をするロト(マケラのインスタストーリーより)。ちょうど親子くらいの年齢差でしょうか。



※来日迫る! フランソワ=グザヴィエ・ロトのインタビュー “聴き手が旅をした気持ちになれるようなプログラムを” 初来日のケルン・ギュルツェニヒ管とともに(Japan Arts

 17世紀からアバンギャルドまで幅広いレパートリーを持つロトに、その好奇心の源泉を聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

 「私が音楽に惹かれるのは、それがまさに旅だからです。これとこれだけをやる、というような限定はしたくない。さまざまな時代のレパートリーを指揮することで、聴き手が旅をした気持ちになれるようなプログラムを作ることに興味があります」


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