風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

アレクサンドル・カントロフ ピアノリサイタル @東京オペラシティ(6月30日)

2022-07-01 18:56:25 | クラシック音楽


2019年のチャイコフスキー国際コンクールで一位をとった、フランスのアレクサンドル・カントロフ。
コンクールには全く関心がない私だけど、フレイレが審査員としてあの真央君と並んで選んだピアニストなら絶対に私の好みに違いないと、オペラシティまで聴きに行ってきました。フレイレの追悼コンサートでもこの二人が弾いていて、ゲルギエフも「ネルソンは彼らのことをよく知っていた」と言っていたし。
昨年11月のリサイタルの評判も良かったので楽しみだったけど、いやあ、期待を遥かに超えて素晴らしかった。。。。。。。興奮した。。。。。。。
実はyoutubeで聴いても彼の良さがイマヒトツわからなかったのですが、生で聴くと熱さと冷静さの同居の素晴らしさがわかるね!あと、あの和音の響きの色合い!
開演前には、本人からフランス語と日本語で「どうぞお楽しみください」のアナウンス。kajimoto恒例のこれ、楽しくて好き

【リスト:J.S.バッハのカンタータ「泣き、嘆き、悲しみ、おののき」BWV12による前奏曲 S.179】
【シューマン:ピアノ・ソナタ第1番 嬰へ短調 op.11】
真央君のピアノを初めて聴いたときに「新人類」と感じたけど、今回も同じことを感じました。現在、真央君が23歳(初めて聴いた時は21歳)で、カントロフは25歳。
演奏自体はベテランピアニスト達と比べると二人ともまだ硬さはあるけれど、なんだろうねえ、この落ち着きぶりは。緊張なんて全くしてなさそう。この世代って、人種を超えてこういう感じなのだろうか。ニコニコッと舞台に出てきて、ピアノを弾きはじめると途端に別人になる。
カントロフの弾く色合い豊かな和音の響き Theシューマンな響き 他にも色々な箇所で「シューマンの音だなあ」と感じました。
真央君もシューマンがとてもよかったけど、チャイコン組にはやはり似ているところがあるのだろうか。そういえば真央君と同じく、カントロフもロシア味のある音だったな。インタビューによると、長年ロシアの先生に師事していたとのこと。またカントロフの祖父母(ジャン=ジャックの父母)は、ユダヤ系ロシア人なのだそうです。
ドラマティックさとロマンティックさは真央君と同じだけど、真央君の方はより甘い幻想的な優しさがあって、カントロフの方はより鋭さと微かな狂気と静けさのようなものを感じました。どちらも、個性がしっかりあって素晴らしい。
この日は前半も後半も、曲の間で拍手は起こらず。この歳で完全に客席の空気を支配しているとは。本人は飄々としてるのに。というところも真央君と似ている。新人類だなあ。

ただ今日の演奏、四楽章の半ば辺りは少しダレて、というか長い曲だなと感じられてしまった。これはカントロフのせいというより、曲自体の問題のような気もする。ラストは盛り返して、興奮しました。

(20分間の休憩)

【リスト:巡礼の年第2年「イタリア」から ペトラルカのソネット第104番】
【リスト:別れ(ロシア民謡)】
【リスト:悲しみのゴンドラ II】
【スクリャービン:詩曲「焔に向かって」】
【リスト:巡礼の年第2年「イタリア」から ソナタ風幻想曲「ダンテを読んで」】
前半で既に十分満足だったけど、後半は更にパワーアップ。
カントロフのリスト、大変よい(しかし個性的なプログラムだな
スクリャービンから間を空けずにダンテソナタに続けた流れ、ストーリーがそのまま繋がっているようで、それがちゃんと演奏から感じられて、ゾクゾクしました。
それにしても、25歳で”神曲の音"をどうしてこんなに見事に出せるのだろう。どうしてその空気をこんなに表現できるのだろう。響きに高潔さ、神聖さまで感じさせるなんて……恐ろしい子……。私の25歳の頃のことを思うと、不思議でならない。老成しているというか、なんというか。脱帽です。

プログラムの第2部では、人生との別れを告げ、死後の世界へと直面していきます。私たちの知る世界との惜別です。そして、スクリャービンは『焔』と言っても破壊ではなく、大いなる神秘の啓示に近い宗教的な思考がみられるし、だからこそその後に大いなる闘いとも言うべきダンテの『インフェルノ』を弾く必要があります。生と死の激しい葛藤があって、芸術家は最後にはある種の勝利を得ます。しかし、長調の和音で結ぶのではなく、リストは空虚5度を置いている。闘いに勝ったのか負けたのか、生きているのか死んでいるのかといった結論よりも、ここにいたる旅の全体が人生の何たるかを物語っていると私は思います。
(『ぶらあぼ』インタビュー)

たとえキリスト教文化のフランスでも、25歳でこういうことを考えるものだろうか。考え方がとても大人で、驚く。彼は自分の表現したい世界の景色を明確に持っている人なのだろうな。それが演奏からも伝わってくる。同時にそういうストイックさに、若さも感じる。もちろん悪い意味ではなく。歳とってくると、だんだん考え方がいい加減になってくるのでね。それも悪いことではないと私は思ってますが。どちらも良き。
ちなみに今回予習で聴いたポゴさんの演奏も私は大変好きなのですが、2014年の来日公演で弾いてたんですね。聴きたかったな。

【グルック(ズガンバーティ編):精霊の踊り *アンコール】
アンコール一曲目は、『精霊の踊り』。
大阪のアンコールでは違う曲順だったそうなので深い意味はなかったのかもしれないけど、ダンテソナタ→精霊の踊りの流れにも、一つのストーリーが続いているように感じられました。
しかし、、、私はまだこの曲を冷静な状態では聴けないのでありました…。私がこの曲を生で聴くのはフレイレ以来で(この曲を弾くピアニストは珍しいですよね)、生音の威力というのは物凄くて、聴きながら必死に涙を堪えていました。懐かしく思い出すには、まだ記憶が鮮やかすぎる。
でもフレイレが大切に大切に弾いていたこの曲を、彼が未来への希望を繋いだであろうカントロフがこうして弾いてくれて。そのことにとても慰められました。精霊達が踊っている場所。フレイレは今そこにいるのだろうなと感じた。

【ストラヴィンスキー(アゴスティ編):火の鳥からフィナーレ *アンコール】
そして精霊の踊り→『火の鳥』のフィナーレという流れも、沁みた。。。凄く救われた。。。
私はこのピアノ編曲版を初めて聴いたのですが、あのオーケストラ曲をピアノ曲にしようなどという発想がよく出たものだ。そして成功している。
スクリャービンにしてもこの曲にしても、カントロフは人知を超えた光の世界をなぜ25歳で表現できるのだろう。あの和音の響きが一つの理由だろうと思うけど、それだけじゃない音楽作りの力を彼のピアノからは感じる
この曲もチャイコフスキーコンクールで演奏した曲なんですね。

【ヴェチェイ(シフラ編):悲しきワルツ *アンコール】
【ブラームス:4つのバラード op.10-2 *アンコール】
【モンポウ:歌と踊り op.47-6(歌のみ) *アンコール】
【ブラームス:4つのバラード op.10-1 *アンコール】
ヴェチェイという作曲家は初めて知りましたが、ハンガリー人なんですね。この曲も、とてもよかった。カントロフはこういう曲の空気を作り上げるのが上手いね。
ブラームスもよかったな。op.10-2は優しくて。その静かな空気でしっとりとモンポウが弾かれ(この曲だけタブレットで楽譜見てた)、最後はブラームスの10-1(エドワードバラード)。この曲を聴くのはツィメルマン、アファナシエフに続いて3回目。彼らほどの濃厚さはないけど、ちゃんと暗い音で、スケールも大きくてよき しかし演奏会の最後がこの曲とは
全6曲のアンコール(前日の大阪ではモンポウがなく5曲だったとのこと)。本人も終始嬉しそうな笑顔でとてもご機嫌だったけど、本編からずっとあんな渾身の演奏をして翌日の名古屋公演は大丈夫かい…?とちょっと心配になってしまった。チャイコフスキーコンクールのときも、最初からエネルギー全開で弾いてしまったそうで。

ーチャイコフスキーコンクールのファイナルの舞台で演奏してみて、いかがでしたか?

本当にすばらしかったです。このコンクールのために全力で準備してきたので、アドレナリンもたくさん出て、特別な感情を持ちましたし、本当に疲れました。…というのも、ファイナルでは最初からエネルギーを全然セーブしないで弾いてしまったので、1曲目の1楽章が終わったところで、もう息切れしそうになってしまって(笑)。

ー力の配分とか計画しなかった感じなんですか? でも、見事に弾ききったように見えましたよ。

全然計画しなかったんですよー。事前に2曲をいっぺんに弾いてみるということもしなかったし。まぁどうなるかやってみようという感じで本番に臨んだので。

ーそうなんですか…そのうえ、2曲目にあの大きな曲(ブラームスの2番)を選んでいたんですね。

そうなんですよ。もしかしたら1曲目にブラームスを弾いておいたほうがよかったのかもしれません。なにしろ、チャイコフスキーが終わったときにはもう疲れきっていたから。あの時はどうなるかと思いましたが、でも、再びステージに出てブラームスを弾き初めてみたら、大丈夫でした。

ピアノの惑星journal

アンコールも含め、このピアニストの基本的傾向がわかるような選曲の演奏会だったなと感じました。
NHKの収録が入っていたので、いずれ放送されるのではないでしょうか。
本当にいい演奏会だった。
こんな若い子からこの世界に生きることの価値を教えてもらえるとはね。。。


あんなエキサイティングでドラマティックな演奏をするのに、ピアノを離れるとこの笑顔
このとき私も「かわえー」と思って見てました。
今日のカントロフ、ずっと嬉しそうでしたね。数ヶ月住みたいくらい日本がお気に入りとのことで、オペラシティのホールも気に入ってくれたようだし(インスタに"the amazing Tokyo Opera City Concert Hall"とあげてた)、毎年来てくれるといいな ただこのホール、前回のシフのときも感じたけど、コロナ禍以降に空調でも変えたのか、開演後や休憩後しばらく微かな雑音がするのよね…。あれ、結構きになってしまう。
※カーテンコールの写真撮影はOKでした。私は拍手をしたかったので撮りませんでしたが。


大阪の5曲も既に史上最多アンコールだったのか。日本で気持ちよく演奏してもらえたようで良かった

Alexander Kantorow - Interview at the XVI Tchaikovsky competition (2019)

チャイコフスキーコンクール時のインタビュー。驚くほど自然体だよねえ。

Alexandre Kantorow won the Grand Prix of the Tchaikovsky Competition with this concerto

チャイコフスキーコンクールのブラームスのピアノ協奏曲2番

Alexandre Kantorow performs Stravinsky's The Firebird

マリインスキーオーケストラ公演より、本日のアンコールでも演奏された『火の鳥終曲』。
ゲルギエフ、嬉しそう 協奏曲のソリストがアンコールを弾いているのを舞台上で聴くゲルギエフの姿を見るのも、好きだったんだけどな。もう見られることはないのかな…。

Alexandre Kantorow - Encore in Mariinsky (21.12.2019)

同じく、ヴェチェイ(シフラ編)の『悲しきワルツ』。

※人生の何たるかを物語る壮大な旅(ぶらあぼ
※チャイコフスキー国際コンクール第1位、アレクサンドル・カントロフさんのお話(ピアノの惑星journal
※アレクサンドル・カントロフ(pf)特別インタビュー(杜のホールはしもと
※冷静な眼差しと燃え立つようなパッションの両面を持ち合わせるピアニズム。特別インタビュー(kajimoto

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